もし社員が酒気帯びで事故を起こしてしまったら…?企業としての対応策を考える
酒酔い・酒気帯び運転は、判断・反応能力が著しく低下し重大事故の原因を作り、全ドライバーが「絶対にやってはならない」行為です。飲酒運転は罰則の強化や社会的気運の高まりによって年々減少しているものの、近年下げ止まり傾向で、依然として悲惨な交通事故は後を絶ちません。
今回は、もし社員が酒気帯び運転で事故を起こしたらどんな事態に陥るのか、加えて会社の社会的役割と予防対策を解説することにより、「酒気帯び運転をしない・させない」ことを再認識して頂きたいと思います。
3分でわかるSmartDrive Fleet Basic クラウド型アルコールチェック機能
SmartDrive Fleet Basic クラウド型アルコールチェック機能の概要についてご紹介します。
目次
年末年始は飲酒を起因とした交通事故が増える?
警視庁が公表している資料によれば2010年からの5年間、もっとも飲酒運転事故が発生していたのは12月。累計2,311件、平均発生件数の約1,17倍という数字を見ても、忘年会などお酒を飲む機会が多い年末は、飲酒運転事故も増える傾向にあるとわかります。
1月の発生件数が比較的少ないのは意外かもしれませんが、
- 正月休みの影響で交通量が少ない
- 家族や親族など運転を止める監視者がいることが多い
- 忘年会のみで新年会をしない会社が増えている
といった理由が影響していると思われ、事実1年を通じて日中(AM8:00~PM4:00)に起きた飲酒事故の発生件数は、夕方から早朝より極端に少ないというデータもあります。これはつまり、「業務終了後の飲み会帰り」に事故を起こすドライバーが多いということ。12月も含め飲酒する機会がどうしても増える年末・年始は、会社の上司・同僚が監視者となり「飲んだら乗るな!」を徹底すべきでしょう。とはいえ、ドライバーの総数が多いことも関係しますが、同期間における世代別飲酒事故発生件数を見ると40歳代がワースト1、次いで30歳代となっており運転歴も長く社内で後輩や部下を持つことも多い世代の意識が低すぎる事こそが問題であるといえるでしょう。
運転技術が未熟な20代の死亡事故率がもっとも高いことを加味すると、ベテランドライバーは自分が飲酒運転をしないことはもちろん、若いドライバーに飲酒運転をさせないよう指導する立場だと、強く自覚する必要があります。
「寝たらお酒は抜ける」はウソ!
早朝に飲酒運転で検挙された当事者の多くは、「昨晩深酒したが十分睡眠をとったから大丈夫だと思った」と語っているほか、2018年11月に株式会社タニタが実施した調査1によると、社用車を運転する人の約37%が同様の認識を持っていました。(株式会社タニタ. 2018年. 「飲酒運転に関する意識調査2018」)
1【引用】株式会社タニタ.「飲酒運転に関する意識調査2018」.2018年, 12月6日. https://www.tanita.co.jp/cms/press/pdf/2018/alcohol_research.pdf 最終アクセス2022年4月14日
飲酒事故を完全になくすには、「飲んでも寝れば大丈夫」という考え方はNGです。500mlの缶ビールを飲んだ時アルコールが完全に抜けるには、中肉中背の成人男性で約6時間を要すると言われています。そして、寝ている間は全身の血流が緩やかになり、肝臓へ入る血液量が覚醒時より減少するため、逆にアルコールの分解スピードが遅くなると考えられています(体質にもよります)。
「寝ればお酒は抜ける」は決して正しい情報ではありません。忘年会や新年会でついつい飲みてしまう人は多いかもしれません。たとえ、いつも通りしっかり睡眠をとったとしても、翌朝までアルコールが残っているため、それが事故につながりかねないのです。こうした事実から、警察は近年、「年末年始・早朝」の飲酒運転取り締まりを強化しています。
中にはお風呂・サウナ・運動で大量に汗をかけばお酒が抜けると考えている方もいるようですが、体内に入ったアルコールは90%以上が肝臓で分解されるため、せっせと汗をかいてもほとんど排出されません。むしろ、飲酒すると利尿作用により体が脱水状態になるため、飲酒後に長時間お風呂やサウナに入ったり、激しい運動をしたりするのは大変危険な行為です。死亡事故に至った例もありますので、絶対にやめましょう。
もしも…社員が飲酒運転による事故を起こしてしまったら?
もし、社員が飲酒運転をした場合、会社はどのような対応をすべきでしょうか。会社に対して刑事責任・行政責任はどのように生じるのでしょうか。
たとえば翌日、朝から営業車で客先に回る社員にお酒を多くすすめると、道路交通法などをもとに会社に対して行政処分、あるいは代表者に刑事罰が適用される可能性があります。また、役職・雇用形態・年齢などに関わらず、飲酒の事実を知りながら社用車の使用許可や自家用車の貸与をした場合、次のような非常に重い罰則が科せられます。
- 酒酔い運転・・・5年以下の懲役または100万円以下の罰金 (道路交通法第117条の2第1号)
- 酒気帯び運転・・・3年以下の懲役または50万円以下の罰金 (道路交通法第117条の2の2第3号)
加えて、「まあ一杯ぐらいいいじゃないか」と軽い気持ちでお酒をすすめただけでも、
- 酒酔い運転・・・3年以下の懲役または50万円以下の罰金 (道路交通法第117条の2の2第5号)
- 酒気帯び運転・・・2年以下の懲役または30万円以下の罰金 (道路交通法第117条の3の2第2号)
が課せられますが、交通事故に発展した場合はそれにも増して、問われる民事責任や行政処分、社会的信用の失墜が深刻です。民法715条及び自動車損害賠償保障法3条において規定されている、「使用者責任」に基づく損害賠償請求では、飲酒運転を軽視する社風だったり、飲酒の有無を確認するシステムを構築していなかったりした場合、会社側の責任が重く問われることになります。
物流・運送など、車を日常的に業務で使用する事業者の場合、車両使用停止・事業停止・営業許可取消といった行政処分を、一定期間科せられる可能性も。飲酒事故は単なる交通違反ではなく犯罪行為とされるため、報道では「A運送従業員・B容疑者」と必ずアナウンスされますし、業務中の事故で重大な被害が出ればトップニュースとして大々的に取り上げられてしまいます。
ネットやSNSが普及している現在、責任の有無や業務中・プライベートに関わらず、社員が飲酒事故を起こした事実はあっという間に拡散するため、会社への社会的批判が増していくのは火を見るより明らかです。社員が飲酒事故を起こした会社を信頼する企業や人はいませんし、飲酒運転ドライバーのタクシーに乗りたがるユーザーなんていませんから、たちまち社会的信用が地に落ち、最悪の場合、経営が成り立たなくなる可能性も考えられるでしょう。
飲酒事故が起きる前に会社ができる事とは
前述した通り会社が被る悪影響は計り知れないため、業務中はもちろん通勤などの日常的な運転の際にも、事業主や総務担当者は全従業員に飲酒運転をさせない対策を立てる必要があります。この項では、万全を期すべき飲酒運転防止対策ついて、どのようなことに会社は取り組むべきかを解説しましょう。
社員教育と飲酒運転防止システムの構築
事故の有無に関わらず「飲んだら乗るな・乗るなら飲むな」の意識を徹底的に植え付けるために、まずは飲酒運転をしてしまう人の心理を理解しましょう。
飲酒運転をする人には、取り締まりに遭わず事故さえ起こさなければよいと考える人(パターン1)、アルコールが運転に及ぼす影響を甘く見ている人(パターン2)、そして飲酒によって気が大きくなる人(パターン3)のおもに「3パターン」の心理が働いています。
パターン1
「遵法精神が希薄」であることが原因なため、厳格化された罰則の周知や家庭・会社へ及ぶ悪影響、過去に発生した悲惨な飲酒運転事故の顛末を繰り返し共有することで、社全体の遵法精神は徐々に高まっていきます。「飲酒運転撲滅 ダウンロード」というワードでネット検索すれば、各警察が提供しているポスターやチラシ、リーフレットなど、広報啓発グッズを無料で入手できるので、ぜひ会社全体の意識向上や社員教育に活用してみてください。
パターン2
飲酒をすると、
- 視界・注意の範囲が狭くなる
- 速度感・動作が乱れる
- 普段の欠点があらわになる
- 自己規制能力がゆるむ
- ミスに対する自覚がなくなる
など、安全運転を保てない様々な悪影響が出るものの、口頭や各種資料だけではなかなか伝わりきらないものです。そんな飲酒による運転への悪影響を疑似体験できるツールが市販されていますので、取り入れて見ましょう。中でも医学理科学教材の製造・輸入・販売を手掛けている、日本スリービー・サイエンティフィック(株)の「飲酒状態体験ゴーグル」がおすすめです。
実際に試した感想をお伝えすると、運転どころかキャッチボールや線の上をまっすぐに歩くことすらできない状態に。「これは本当に危険だ」と飲酒運転の危険性を平常時の脳にしっかり刻み付けることができました。この時使用したのは酒気帯び運転に相当する「酩酊初期」でしたが、その他にほろ酔い・酩酊・泥酔など飲酒量に合わせたタイプがラインナップされており、価格はいずれも3万円弱。飲酒運転・事故が会社に与える損害を考えれば決して高い買い物ではありませんので、パターン2の飲酒運転撲滅を目指すなら、社員教育への導入を視野に入れてみてはいかがでしょうか。
パターン3
一方、最も厄介なのがこのパターン。普段は安全運転意識が強く、飲酒による悪影響もしっかり自覚しているのに、高揚感や「そんなに酔ってないし短距離だから…」といった、全く根拠のない過信と油断からつい飲酒運転をしてしまうのがこの人たち。
このパターンには、アルコールテスターを導入して運転前に飲酒の有無をチェックするなど、組織的に飲酒運転防止システムを構築することが不可欠。とくに、損害が甚大となる物流・運送業においては必ず実施すべきです。また、忘年会や新年会など業務終了後の飲み会では、規模に応じて数名「ハンドルキーパー」を任命するのも一つの手段です。お酒を飲まず送迎してくれる替わりに会費を免除するなど、飲酒運転撲滅への意識が高い企業の中には、会社が手当を支給するところもあるようです。
飲酒運転発覚時の処分周知と厳格化
勤務中はお酒を飲むこと自体が言語道断ですし、ましてや飲酒運転で検挙されたり事故を起こしたりした場合、会社は服務規定に則って処分を下さなくてはなりません。普段からトラックを運転をして大切な商品や顧客を運ぶ物流・運送業者のセールスドライバーについては、懲戒解雇もやむを得ないかもしれません。
ただし、プライベートな時間に関しては会社が関与できないため、飲酒運転が発覚しても懲戒処分を下すことは基本的にできませんが、万全を期すなら服務規定や労働契約書へ「就業時間外でも処分する」旨を明記したうえで、全社員に周知徹底しましょう。飲酒運転と飲酒事故に対する社会的な批判の高まりを鑑みると、処分も厳格化すべきかもしれませんが、勤務時間外に飲酒運転・事故を起こした社員を「懲戒解雇」できるかどうかは状況によって異なり、
- 行為者の属性(職種・役職・勤務状況)
- 行為の状況・内容(飲酒量・被害の有無・事後の対応)
- 社会的影響の有無・程度
- その他情状
- 懲戒規定の周知徹底の有無
を総合的に考慮して処分を決めなくてはなりません。参考に休日の飲酒運転を理由とする懲戒解雇の可否について、過去の判例を挙げますが、いずれも古い判例であり、飲酒運転撲滅への動きが強まっている現在では、懲戒解雇を認めるケースが主流になっています。
事例 | 事案の概要 | 考慮要素 | 処分の可否 |
Y社(運送業)懲戒解雇事件(H19年8月・東京地裁) | 業務終了後飲酒し、自宅に向かう途中に酒気帯び運転で検挙され、30日間の免停・20万円の罰金に処せられたセールスドライバーを懲戒解雇。 | l セールスドライバー l 検挙後処分を恐れ直ちに会社へ報告しなかった l Y社の社会的評価が著しく低下する恐れ | 妥当 |
F市水道局員懲戒免職事件(H18年9月・大阪地裁) | 飲酒運転で2度衝突事故を起こし3名に傷害を負わせ、いずれも警察に通報せずその場を立ち去って検挙された職員を市が懲戒免職。 | l 管理職(係長) l 事故後救護措置を取らず立ち去った l 市は飲酒運転の禁止について再三周知徹底を図っていた | 妥当 |
K市職員懲戒免職事件(H21年4月・大阪地裁) | 休日に酒気帯び運転で検挙され、30日間の免停・20万円の罰金に処された職員を市が懲戒免職。 | l 管理職 l 違反距離が400mかつ時速40km l アルコール量が最低限 l パトカーの追跡に気がついて自発的に停車 | 不当 |
まとめ
会社がどんなに力を入れて社員教育や防止システムの構築し、懲戒処分の周知徹底と厳罰化を実施しても、目が届かないところで飲酒運転が行われることは少なくありません。自分が飲酒事故の加害者にならないだけではなく、大切な人の命が飲酒運転によって奪われてしまったら…ということにまで思いを巡らせ、「しない・させない」を心に強く刻み、一歩一歩「飲酒事故撲滅」を目指していきましょう。