交通事故は未然に防げる? AIを用いた危険運転の自動検出の現在と未来
NTTコミュニケーションズと日本カーソリューションズ(NCS)は、2016年9月26日に車両から取得したデータから人工知能(AI)での解析を行う共同実験により、高精度の危険運転自動検知に成功した事を発表しました。
自動運転だけではなく安全運転支援の分野でも注目を集めるAI。この技術を用いることで交通事故を未然に防ぐことは可能なのか。発表された内容を含めて、交通安全とAIのこれからを考えていきましょう。
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目次
実験では85%の確率で危険運転を検出
共同実験では、事故率の高い「ヒヤリ・ハットシーン」と呼ばれる状況を設定して行われました。
具体的には、自転車などが走行中の車両直前に飛び出し、接触するようなシーンです。
NCSが開発した安全運転促進IoTツール「NCSドライブドクター」から、映像や各種センサー情報の時系列データを抽出。そのデータをNTT研究所の「移動状況推定技術」を用いてドライブレコーダーデータの中にヒヤリ・ハットシーンが含まれているかどうかを解析する実験を行ったところ、約85%の確率で危険運転を検出することに成功したといいます。
今後NTTコミュニケーションズとNCS両社は、AIで自動認識できる対象をより多くの路面状況や交通状況に拡大していくとともに、映像やセンサー情報のビッグデータ解析から、危険運転の検知・解析の高度化を目指していくことになります。
開発のキッカケは、NCSのサービス
自ら考え、学習するという意味で従来のコンピューターと一線を画するAI。
最近ではさまざまな分野への応用が期待され、自動車分野では自動運転技術に欠かせないものとして各メディアで紹介される機会が増えています。
そのAIを使った危険運転の自動検出技術が開発されたキッカケは何だったのでしょうか?
その始まりはNSCが提供しているサービスでした。
個人・法人へのカーリース事業を展開しているNSCでは、契約者に安全運転を促進してもらうためNCSドライブドクターという自動車用IoTツールを提供しています。
IoTとは、従来のコンピューターは通信端末のみならず、日常に存在するあらゆる物に通信端末機能を備え、インターネットに接続して菩提なデータの集積、発信を可能にする技術。NCSドライブドクターも走行中の運行データを自動的に転送することで、車両の運行状況や、安全運転の実施状況をweb上で確認できるほか、運転映像も録画できます。
最近ではこうした、自動車そのものを情報端末として利用するテレマティクスという技術が海外を中心に盛んになってきていますが、NSCドライブドクターもその一種なのです。
その中にNCS交通安全プログラムというオプションがあるのですが、利用者の増加である問題が浮上してきました。
人間が見て確かめていては、追いつかない
NCS交通安全プログラムとは、記録された走行映像データの中から交通違反や、事故につながりやすい「ヒヤリ・ハット」などの危険運転シーンを抽出し分類するサービスです。
こうした抽出・選別に長けたスタッフが映像を見ながら確認作業を行っているのですが、サービス利用者の増加により、多大な時間がかかる作業への負担が増加してきました。人間がこれらを肉眼で見て、考えて、確認するという作業に要するマンパワーの負担が最大の問題になってきたのです。
いわば、利用者のドライブをもう1度再現、確認しているようなものですから当然のことなのかもしれません。
NTTコミュニケーションズのAI技術
そこで注目されたのが、NTTコミュニーケーションズが開発していたAI技術です。
これまで警備会社などと連携して行ってきた不審者やその動作検知実験、さらにNTT研究所の「移動状況推定技術」を組み合わせました。
センサーから取得した、人やモノの動きに関わる速度や加速度のデータと映像の組み合わせで、「対象物がどのような環境でどのような移動をしているか」を自動推定するのが、NTT研究所の技術です。
「マルチモーダル」と呼ばれる各種センサーと映像を組み合わせたデータを、AIに判断させることによって、人間が行うよりはるかに早く利用者の交通安全プログラムのデータを抽出できます。
AIだけではなく、画像解析技術の発展も不可欠だった
センサーや映像など複数のデータを組み合わせた、マルチモーダルデータの鍵を握るのが画像解析技術です。
画像解析ソフトそのものは10年以上前から市販されており、固定されたカメラからの映像など、限られた条件下では効果を発揮していました。カメラで撮影した映像から、静止しているモノ、動いているモノや人、そしてその速度や大きさなどを、細かく判別することができたのです。
たとえば立ち入りが規制されている場所に向かって歩いている人、自動車だけが入れる場所で歩いている歩行者などを容易に解析し、見分けることもできました。
しかし、あらかじめ設定された場所で、解析すべき対象を絞り込むための細かい設定や調整が必要であり、今回行われたような実験で使えるようなものではありません。
飛躍的に用途を拡大させるためには、映像以外のデータ収集が不可欠になります。
マルチモーダルデータの活用
移動体、この場合は自動車に搭載されたカメラで画像解析を行おうとするならば、不可欠なのが自動車そのものや周囲に対するセンサーで得られた情報です。
自動車が何km/hでどのような走行をしているのか。それに対して、撮影された中で注目すべきと判断された対象は、相対速度がどの程度で、接近しているのか離れているのか。
複数のセンサーで取得したマルチモーダルデータが揃って、初めてAIによる高速データ抽出が可能になりました。
これまでは人間の目で見て判断していたものが、データという形に置き換わることにより、人間が見なくとも、ある程度把握できるようになったのです。現状では冒頭でも紹介したとおり、85%の確率でヒヤリ・ハットシーンの抽出が可能になっています。
将来的にマルチモーダルデータの種類を拡大していけば、さらに高い確率を目指していけるでしょう。
そのためには自動車側にレーダーや赤外線などのセンサーを追加し、あるいは道路側のセンサーを使ったITS(高度道路交通システム)の活用も不可欠です。
今回共同実験を行った両社は、路面や交通状況の条件が良い時以外でもAIが自動認識できる対象を拡大する、としています。
つまり、映像でとらえにくい夜間や悪天候時、映像では見えない死角などのデータを得られるようになれば、AIだけでほとんどの「ヒヤリ・ハット」を抽出できるようになるので、それを目指すのは必然でしょう。
画像解析による危険探知の実例
今回は「カーリース利用者の運転実態から、ヒヤリ・ハット事例の抽出」がテーマとなる実験でした。
しかし画像解析による危険探知、安全運転支援については、既に実用化されており、市販のクルマにも装備されているものがあります。
その代表が、スバルのアイサイトをはじめとする映像認識型の自動ブレーキです。
現在ではカラー映像により色認識まで可能になった複眼式カメラ(人間のように両目で見て、距離や遠近感まで把握できる)を搭載したアイサイトでは、まさに画像解析技術が使われています。
- 衝突のおそれがある人やモノが迫った場合、あるいは対象物が移動している場合は、それがこちらに迫っているかどうかも判断して必要があれば自動でブレーキが作動。
- 同様の技術で、クルーズコントロール走行時に前走車との車間を保持するシステム。
- 車線を逸脱しないよう警告や修正まで行ってくれるレーンキープシステム。
- ウインカーを出すだけで、車線変更や前走車の追い越しまでしてくれるシステム。
それらを組み合わせた国産車では、最新の発展系が日産が発売したばかりの新型セレナにも搭載されている、高速道路での運転支援装置プロパイロットです。
今後予想される、画像解析による危険探知の進化
現在は車載センサーやITSから得られるデータが十分ではなく、AIもまだ進化途上のため「完全自動運転」には至っていません。
しかし運転支援装置だけでも人間が操作するより確実と言われる危険探知、回避システムは既に実用化され日々進化し続けています。
その中で電波や赤外線など、多様なセンサーによるデータに補完された画像解析技術は、AIの進化で探知や回避だけではなく、予測を目指していくことになるでしょう。短時間に膨大な事例の蓄積と学習を行うディープラーニングも急速に発展していますが、それによってさらに高いレベルの予測も可能になるかもしれません。
人間から見たら未来を予知するかのように事故を予測し、回避を行うAIが登場する時代はすぐそこまで来ており、今後急速に進化していくのではないでしょうか。