運転日報に罰則はある?法律上の義務と罰則を徹底解説
業務で車両を運転する場合、「運転日報」を作成・管理することが法律で義務付けられています。運転日報の適切な運用は、法令遵守や安全運転の確保、労務管理の観点でも役立ちます。
では万が一、運転日報の運用方法に不備があった場合、企業はどのような対応が求められるのでしょうか。本記事では、運転日報の基本と重要性、罰則から管理方法までを徹底解説します。
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運転日報の管理用Excelテンプレートです。ドライバーがアルコールチェック、出発・到着時刻、走行距離を記録できます。また付属の運転月報シートで運転日報の値を集計することも可能です。
目次
いまさら聞けない「運転日報」とは
運転日報は安全運転管理者の義務の一つ
運転日報とは、ドライバーの氏名や運転日時、走行距離などを記録する書類のことです。トラック運送をはじめ、一般貨物自動車運送事業を営む企業では「貨物自動車運送事業輸送安全規則」において、運転日報の記録と保管が義務付けられています。また、一般企業においても、道路交通法施行規則第9条の8の中で、「乗車定員11人以上の自動車は1台以上、それ以外の自動車は5台以上を使用している事業所(自動車使用の本拠)は安全運転管理者の選任が必須である」と定められており、安全運転管理者の業務の一つに、運転の状況を把握するために必要な事項を記録する日誌を備え付け、運転を終了した運転者に記録させることが義務付けられています。
なぜ運転日報が必要なのか
運転日報は、ドライバーが日々、安全に業務を遂行できるように勤務時間や運行状況を適切に把握し、交通事故や法令違反を未然に防ぐツールの一つです。ドライバーが適切な休憩を取っているか、過労運転をしていないかなど、2019年より施行された働き改革関連法案や労働基準法を遵守するためにも重要な役割を果たしますので、日々確実に、抜け漏れなく運用しましょう。
運転日報の記入方法
運転日報に記載すべき必須項目一覧
運転日報には、貨物自動車運送事業輸送安全規則8条に定められた下記の8項目を記載しなければなりません(緑ナンバーの事業者の場合)。
- 運転者の氏名:誰が運転していたかを明確にするため。
- 運行の開始および終了の日時:運行がいつ開始し、いつ終了したか。
- 運行の出発地および到着地:移動経路を把握するために必要。
- 走行距離:運行中に走行した距離を記録。
- 業務内容:運行の目的や業務内容の詳細。
- 車両情報:使用した車両のナンバーや車種。
- 休憩時間:休憩が適切に取られているかを確認。
- 異常やトラブルの有無:運行中に発生した問題や事故の報告。
また、一般企業が保有する社用車を業務で使用する場合、記載すべき必須項目は次の4点です(白ナンバーの事業者の場合)。
- ドライバーの氏名
- 乗務の開始日時と終了日時
- 乗務距離
- その他、自動車の運転状況を把握するために必要な事項
運転日報の保存と管理
運転日報の保存期間は「最低1年間」
運転日報は次の法律にもとづき、最低1年間の保存が義務付けられています。
貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条では、一般貨物自動車運送事業者(緑ナンバーの事業者)は、ドライバーごとに運転日報を作成し、その記録を1年間保存することが定められています。
また、白ナンバー事業者においては、保存期間がはっきり明記されていませんが、道路交通法施行規則第9条10の8において、2022年に義務化となったアルコールチェックによる記録の保存が1年と定められているため、合わせて保存しておくことで、事故やトラブルなどが発生した際に確認をすることができます。
運転日報の記入方法
運転日報の作成方法は特に決まりはなく、必須項目を記録することができれば、手書きでもアプリでも可能です。手書きの場合、綴りになった市販のシートや、オンラインでダウンロードができるExcelまたはPDFのテンプレートを印刷し、ドライバーに配布する企業もあります。
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また、アプリや車両管理システムなどのデジタルツールは、多くのGPS機能から位置情報を取得し、走行記録を自動で記録・保存することができるため、業務効率化や記入ミスを防止ができるというメリットがあります。日報の自動生成や入力支援機能が搭載されたシステムを導入すれば、より効率的な運転日報の作成が可能です。
運転日報の書き方やテンプレートは「運転日報とは?書き方やテンプレートを紹介!」にて詳しく紹介していますので、合わせてご活用ください。
運転日報の管理は「紙」でも「デジタル」でもOK
運転日報の記載方法は前述の通り、運転日報の管理媒体は従来の紙媒体に加え、デジタルデータでの管理も可能です。現在は管理のしやすさから、データで車両情報や運転日報を一括管理する企業も増えています。
<紙媒体で管理する方法>
日報をファイルにまとめ、指定の場所に保管する方法です。紙媒体は保管スペースが必要なほか、検索性が低いため、過去の記録を確認するのに手間がかかったり、紛失や劣化のリスクがあったりするため、管理には十分な注意が必要です。
<データで管理する方法>
運転日報のデジタル化が進み、データで効率的な管理ができるようになりました。Googleドライブなどのオンラインストレージサービスや、日報の自動生成機能を備えたシステムを導入することで、記入漏れを防ぎつつ、データの検索性を向上させることができます。車両管理システムやアプリなど、オンラインツールを利用すれば、リアルタイムで最新データを更新したり、スマホやタブレットからデータを共有したりできるため、管理業務が簡素化できます。
デジタル化による管理の効率アップと負担減
車両管理システムは、運転日報だけでなく、車両情報やドライバーの労務管理、稼働状況などがまとめて管理できるうえ、保存にかかるコストも大幅に削減できるのがメリットです。GPSをもとに取得した正確な情報を自動で記録するので、ドライバーも運転日報の記入の不備が防げますし、管理者はどこからでもアクセスし、必要な情報をすぐに確認できるため、業務負担を軽減することができるのです。
運転日報に不備があった場合のリスクと罰則
運転日報の不備そのものに直接的な罰則はない
運転日報は、抜け漏れや記入ミス、情報の改ざんといった不備がないように、正しく運用しなければなりません。現時点では運転日報の不備自体に対する直接的な罰則はありませんが、「運転日報をつけていなかった(忘れていた)」「運転日報を紛失した」といった場合、安全運転管理者の業務怠慢と見なされる可能性があります。また、自社のドライバーが業務中に事故を起こした際、運転日報は責任の所在を明確にする上で重要な記録となるため、不備があると企業が責任を問われる可能性があります。
安全運転管理者の選任義務違反に対する罰則
運転日報の不備自体に対する直接的な罰金規定はありませんが、安全運転管理者の選任義務を怠った場合、50万円以下の罰金が科されます。また、安全運転管理者の重要な業務の一つである運転日報の管理が適切に行われていなかった場合、安全運転管理者としての適正が問われ、解任や是正措置が言い渡されるケースが考えられますが、これに従わなかった際も、同様に50万円以下の罰金が科されます。
2022年10月1日から施行された改正道路交通法により、安全運転管理者に関する罰則が大幅に強化されました。具体的には以下の通りです。
- 安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反
改正前の5万円以下の罰金から、50万円以下の罰金に引き上げられました。 - 安全運転管理者の解任命令違反
同じく5万円以下の罰金から、50万円以下の罰金に引き上げられました。 - 安全運転確保のための是正措置命令違反
新設された規定で、50万円以下の罰金が科されることになりました。 - 安全運転管理者等の選任解任届出義務違反
2万円以下の罰金または科料から、5万円以下の罰金に引き上げられました。
また、安全運転管理者の重要な業務の一つである運転日報の管理が適切に行われていなかった場合、安全運転管理者としての適正が問われ、解任や是正措置が言い渡されるケースが考えられます。これに従わなかった際も、同様に50万円以下の罰金が科される可能性があります。
関連記事:安全運転管理者の罰則金は50万円。飲酒運転の事故事例や罰則強化の背景を解説
運転日報の記録と保存は、緑ナンバーの場合は運行管理者が、白ナンバーの場合は安全運転管理者に課された重要な業務のひとつです。そのため、管理者は運転日報の管理を確実に行い、ドライバーの情報や状況を把握できるようにしましょう。これらの罰則強化は、道路交通法第74条の3に基づいています。企業は、安全運転管理者の選任や関連する義務を確実に履行し、違反を避けるよう注意が必要です。
道路交通法 第74条の3
自動車の使用者(道路運送法の規定による自動車運送事業者(貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)の規定による貨物軽自動車運送事業を経営する者を除く。以下同じ。)は及び貨物利用運送事業法の規定による第二種貨物利用運送事業を経営するものを除く。)は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
出典:道路交通法 | e-Gov法令検索
白ナンバー車両の管理厳格化と法律的な背景
アルコールチェック義務化の理由と背景
2022年4月1日に施行された改正道路交通法により、白ナンバー事業者においても安全運転管理者のアルコールチェック業務が義務化となりました。これは、業務用車両を使用するドライバーの飲酒運転を防止する対策の一環であり、現在は、アルコール検知機を用いて酒気帯びの有無を確認し、結果を記録・保存することが義務付けられています。
道路交通法施行規則第9条の10
六 運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器(呼気に含まれるアルコールを検知する機器であつて、国家公安委員会が定めるものをいう。次号において同じ。)を用いて確認を行うこと。
七 前号の規定による確認の内容を記録し、及びその記録を一年間保存し、並びにアルコール検知器を常時有効に保持すること。
出典:道路交通法施行規則 | e-Gov法令検索
アルコールチェック義務化の対象範囲が白ナンバー車両にまで拡大された背景には、2021年6月28日、千葉県八街市で、下校途中の児童5人が飲酒運転の白ナンバートラックにはねられ死傷するといった重大な事故が起因しています。この事故を受け、同年8月4日に発表された「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」のなかで、安全運転管理者の確実な選任や乗車前後のアルコールチェックなどを追加することが発表されました。
関連記事:【2024年最新版】アルコールチェック義務化を徹底解説!対象者は?安全運転管理者の対応は?
道路交通法施行規則における運転日報の詳細な規定
前項でも述べたとおり、道路交通法施行規則第9条10の8では、運転日報の作成が義務づけられており、ドライバーは社用車を運転した際、運行開始時と終了時の時刻、走行距離、車両の異常やトラブルの有無などを記載しなくてはなりません。
労働基準法と運転日報の関係性:法令遵守のために知っておくべきこと
運転日報の記録と労働基準法は密接に関連しています。労働基準法第109条では、「労働者名簿、賃金台帳をはじめ、雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類は、5年間保存しなければならない」と記されており、運転日報はドライバーの労働に関する重要な書類のひとつとして該当します。運転時間や休憩時間、荷待ち時間など、日々の労働時間がまとめられた運転日報は、労務管理を行ううえでも非常に重要な書類であるということです。
もし、長時間の連続運転や十分な休憩時間が確保されていないことが発覚し、過労と判断された場合、労働基準監督署からの指導や罰則の対象になる可能性があります。ドライバーの労働条件を守ることは、交通事故のリスクを低減するだけでなく、企業の社会的信用を守るためにも重要なことです。運転日報を通して、ドライバーの稼働時間が労働基準法に違反していないかを確認し、安全かつ安定して業務が行える仕組みを作りましょう。
関連記事:社内向け交通事故防止対策アイデア10選
運転日報は、安全な運行を実現するための重要な書類である
運転日報は企業およびドライバーを守るためにも重要な資料ですが、不備があったからといって、罰則が科されるわけではありません。ただし、長期的に記録の不備が続いたり、日報が適切に管理されていなかったりした場合、企業に責任が問われる可能性もあるため、注意が必要です。運転日報はただ記録するだけでなく、振り返りを行うことで、業務効率化や事故防止対策に活用することができます。