安全運転管理者の罰則金は50万円。飲酒運転の事故事例や罰則強化の背景を解説
一定台数以上の自動車を事業で使用する企業は、自動車を使用する本拠ごとに安全運転管理者の選任を行わなければなりません。この安全運転管理者選任制度について、2022年10月1日より罰則が強化されることになりました。
言い換えると、安全運転管理者への重要性が急速に高まっているということでもあります。本記事では、罰則引上げの内容とその背景について解説します。
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目次
10月1日から道路交通法施行規則の改正により選任義務違反への罰則が強化 罰則金は50万以下
今年度、警視庁が発表した道路交通法の一部を改正する法律(法律第32号)において、安全運転管理者の選任義務違反等に対する罰則の引上げを始め、安全運転管理者に関する規定を整備すること(第74条の3、第119条の2、第120条および第123条関係)などが発表されました。選任義務違反等に対する罰則の引上げについては以下のように変更され、これらはすべて10月1日より施行となります。
安全運転管理者の業務内容、資格要件などについては、「【2024年】安全運転管理者とは?わかりやすく罰則や講習について解説」をご参照ください。
アルコールチェック義務化については、「【2024年最新版】アルコールチェック義務化を徹底解説!対象者は?安全運転管理者の対応は?」をご参照ください。
改正前後の罰則を比較
改正前 | 改正後 | |
安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反 (1) | 5万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
安全運転管理者の解任命令違反(2) | 5万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
安全運転確保のための是正措置命令違反(3) | 新設 | 50万円以下の罰金 |
安全運転管理者等の選任解任届出義務違反(4) | 2万円以下の罰金または科料 | 5万円以下の罰金 |
解説
- 安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反について
第74条の3
自動車の使用者(道路運送法の規定による自動車運送事業者(貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)の規定による貨物軽自動車運送事業を経営する者を除く。以下同じ。)は及び貨物利用運送事業法の規定による第二種貨物利用運送事業を経営するものを除く。)は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
同様に、条件に該当するにもかかわらず、安全運転管理者の業務を補助する副安全運転管理者を選任していない場合も罰則を受けることになります。
- 安全運転管理者の解任命令違反について
第74条の3の6
公安委員会は、安全運転管理者等が第一項若しくは第四項の内閣府令で定める要件を備えないこととなったとき、又は安全運転管理者が第二項の規定を遵守していないため自動車の安全な運転が確保されていないと認めるときは、自動車の使用者に対し、当該安全運転管理者等の解任を命ずることができる。
上記、解任を命じられているのに解任をしなかった場合、罰則が発生します。
- 安全運転確保のための是正措置命令違反について(新設)
第74条の3の7
自動車の使用者は、安全運転管理者に対し、第二項の業務を行うため必要な権限を与えるとともに、同項の業務を行うため必要な機材を整備しなければならない。
第74条の3の8
公安委員会は、自動車の使用者が前項の規定を遵守していないため自動車の安全な運転が確保されていないと認めるときは、自動車の使用者に対し、その是正のために必要な措置を取るべきことを命ずることができる。
上記2項は、2022年4月27日に改正された道路交通法にて新設された内容です。是正措置が命じられているにもかかわらず、対応を怠った場合、罰則を受けることになります。
- 安全運転管理者等の選任解任届出義務違反について
第74条の5
自動車の使用者は、安全運転管理者又は副安全運転管理者(以下、「安全運転管理者等」という。)を選任したときは、選任した日から十五日以内に、内閣府令で定める事項を当該自動車の使用の本拠の位置を管轄する公安委員会に届け出なければならない。これを解任したときも同様とする。
安全運転管理者を選任したら、必ず期日を守って届出を提出しましょう。
※また、上記のような罰則はありませんが、公安委員会から安全運転管理者等について、第108条の2第1項第1号に掲げる法定講習の通知を受けたら、必ず講習を受講させなくてはなりません。
安全運転管理者等の選任基準
安全運転管理者は、「乗車定員11人以上の自動車は1台以上、その他の自動車を5台以上使用している事業所(自動車使用の本拠地)」において、選任が必須となります。
また、使用する自動車の台数が20台以上になった場合、20台以上・40台未満は1人、以下20台ごとに1人ずつ安全運転副管理者の選任が必要です。
なお、自動二輪車1台は0.5台として計算し、50cc以下の原動機付自転車は含みません。
自らが執務している事業所(自動車使用の本拠地)であれば、社長を選任することもできます。
ただし、運転代行業を事業としている企業の場合、「自動車運転代行業の業務適正化に関する法律」によって、営業所ごとに安全運転管理者を選任し、保有車両が10台を超えるごとに一人以上の副安全運転管理者を選任しなければなりません。
安全運転管理者の選任が必要ない具体例
安全運転管理者の選任が必要ないケース | 具体例(※乗車定員11人以上の自動車がないことを想定) |
---|---|
事業所ごとの自動車数が5台未満 | 各事業所(本社や支店)ごとに使用する自動車の台数が5台未満である場合。例:本社で3台、支店で2台。 |
通勤のみ使用するマイカー | 従業員のマイカーを通勤のみに使用する場合。 業務には使用されないため、台数の算定に含まれない。 |
運行管理者を配置済み | 運送業などで緑ナンバーで運行管理者が既に配置されている場合、白ナンバーが5台以上でも安全運転管理者の専任の必要はありません。 |
50cc以下の原動機付自転車 | 50cc以下の原動機付自転車は台数の算定に含まれないため、選任が不要。 |
法人内専用の車両使用 | 法人内で他部門間の移動にのみ車両を使用し、外部業務に使用しない場合。 |
ナンバーのついていない特殊車両 | ナンバーのついていない特殊車両(農耕用トラクター、フォークリフト、ショベルローダー等)については台数に算定に含まれません。 |
※ナンバーのついた小型特殊車両、大型特殊車両については台数計上されるため、5台以上ある場合は選任が必要です。
出典:富山県警察
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罰則が強化された背景
社会問題化した八街市で起きた飲酒運転事故
2021年(令和3年)6月28日、千葉県八街市の市道で飲酒運転のトラックが下校中だった小学生の列に突っ込み、児童が5人も死傷するという悲痛な事故が起きました。
運転手の呼気からは基準値を超えるアルコールが検出され、事故当時はアルコールの影響によって居眠り状態で運転していたことが判明。さらには、大型トラックの職業運転手の立場として安全運転を心がけるべきであるにもかかわらず、以前より勤務中に飲酒を繰り返し、上司から注意を受けても続けていたと言います。そのため、世間からは該当のドライバーのみならず、所属していた会社へも管理や教育不足による多くの批判・意見が集まりました。
そして、この事故が社会問題化したことで、内閣府は同年8月、「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」を発表、この内容を踏まえ、道路交通法施行規則の一部が改正されました(道路交通法施行規則 第9条の10を改正、2021年11月10日に交付)。それが次の2点です。
- 安全運転管理者に対し、目視等により運転者の酒気帯びの有無の確認を行うこと及びその内容を記録して1年間保存することを義務付ける規定(令和4年4月1日から施行)
- 安全運転管理者に対し、アルコール検知器を用いて運転者の酒気帯びの有無の確認を行うことならびにその内容を記録して1年間保存すること及びアルコール検知器を常時有効に保持することを義務付ける規定(令和4年10月1日から施行 → 当面延期 → 「同年12月1日からの施行予定」として令和5年6月9日にパブリックコメントを募集開始)
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安全運転管理者の未選任が問題視された
また、八街市の飲酒運転における死傷事故は、被害の大きさだけでなく、道路交通法で選任が義務付けられていた安全運転管理者を置いていなかったことにも多くの注目が集まりました。事故を起こした元大型トラックドライバーが勤務していた運送会社の親会社および同社の代表取締役が、道路交通法違反の罪で略式起訴され、罰金5万円の略式命令が出されています。同社と代表取締役は、安全運転管理者選任における条件を満たしていたにもかかわらず、2014年2月末から2021年6月末まで安全運転管理者を置いていませんでした。
もし、安全運転管理者を置き、日々、点呼を実施して運転できる状況か否かを判断したり、運転前のアルコールチェックを行ったり、危険な走行をしているドライバーへ適切な指示や対処をを出していたりしたら・・・。
この事故により飲酒運転撲滅への動きがいっそう強まり、2022年4月27日、道路交通法の一部が改正されました。そこで安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反、解任命令違反の罰則が5万円以下から50万円以下の罰金に強化されることになったのです。また、それに加え、先述したように安全運転管理者が業務を遂行しやすいよう、必要な権限を付与したり、業務に置いて必要な機材(アルコール検知器など)を付与したりしていない場合について、公安委員会が是正のための措置命令を出すことができるという規定が新設されました。また、この是正措置に関する命令に違反した場合も50万以下という重たい罰則が課せられることになりました。
安全運転管理者等法定講習を受けない(未受講)の場合の罰則は?
受講が義務化されている一方で、受講しなかった場合の罰則はありません。しかし、車両を使用する業務を行う上で、安全運転管理者にとって非常に重要な知識を学ぶ講習です。講習を受けなければ、安全運転管理者としての役割を果たすことが難しいため、受講を強く推奨します。
関連記事:安全運転管理者等法定講習とは?2024年(令和6年度)の講習会日程もご案内
安全運転管理者を選任し、安全かつ、確実に業務を遂行しよう
安全運転管理者の選任と業務内容は、企業が事故を起こさず、円滑に業務を進めるためにも非常に重要な取り組みです。今回の厳罰化は安全運転を周知徹底させるためのものであり、各企業も安全運転の重要性を今一度、理解しなくてはなりません。10月から罰則が厳罰化されますので、未選任の企業は今一度、安全運転への周知、運用ルールを見直してみましょう。