物流の働き方改革を推進する「トラック簿」開発秘話 -前編
物流倉庫(トラックバース)の混雑が社会問題となっています。今回はトラックバースの状況をデータ化し、作業の効率をあげ、トラックの待ち時間も削減できるサービスを提供するモノフル社にインタビューしてきました。また、トラック簿の一部サービスで利用されているSmartDrive APIとは何か?こちらについても伺いました。前編・中編・後編でお届けします。
令和6年度版 トラック事業者向け通信型デジタルタコグラフ導入メリットと補助金活用ガイドブック
はじめに、モノフルと武田さまについてご紹介いただけますか。
現在、株式会社モノフルでセールス&マーケティング シニアマネージャーをしています、武田優人(たけだ・ゆうと)です。モノフルは、世界的物流施設大手のGLPの日本法人である日本GLPが、2017年に設立した物流のデジタルトランスフォーメーションに特化した会社です。
私自身は2015年4月、日本GLPに入社し、はじめはプロパティーマネジメント部に所属して物件の施設や運営管理を行っていました。具体的な業務はテナントや物流会社の入退去対応、工事の調整、トラブル対応、アメニティ管理などです。そして2017年の4月1日、不動産というハードサービスだけでなく、物流に関するソフト面のサービスも提供することを目的に、GLP内で新規事業を立ち上げる事業企画部が発足しそこへ参画。呼び出しを待つトラックの長蛇の列や、荷主毎に異なる多種の伝票、数時間にわたる手積みの状況など、私が運営管理をしている際にも現場の苦労を感じていましたが、それをGLPという土台を生かしつつ、スピード感を持って高精度なサービスを提供したい−−そうした思いから、物流に関するさまざまな課題を包括的に捉え、解決へと導くサービスの提供に特化した、モノフルという子会社を立ち上げました。
GLPとしては、今後も物流と不動産の開発を行っていきますが、ハード面だけで解決できないソフト面についてはモノフルがサービスを開発し、両面で最適化を図ります。
2019年4月、モノフルの新たなサービスとしてトラック簿の提供が開始されましたが、開発へのきっかけについてお伺いできますか。
モノフルが輸配送の領域で目指しているのは、次の5つの情報を組み合わせて物流を最適化することです。
- バース管理
- 配車計画
- 求貨求車マッチング
- 運行計画
- 動態管理
上記5つの機能や情報が連携し、なおかつ活用できてこそ、輸配送の最適化が実現するんです。
現状把握と車両の状態や輸配送に関する課題を洗い出すために、パートナー企業のスマートドライブと何度も話を重ねて気づいたのが、会社ごとに配車計画や動態管理を取り入れていても、「情報の共有化」ができていないために、業務改善が進んでいないということでした。開発に莫大な予算をかけて作り込まれた配車システムも、運送会社に情報を伝える手段がFAXだったり、電話だったり、最終的には人の手を介している。さらには返信もFAXで送られてくるため、やり取りで発生する紙を人の手で管理しなくてはなりませんし、情報が一部の人にしか伝わっていないなんてことも。
動態管理もまったく同じ状況でした。運送会社の多くはデジタルタコグラフ(以下、デジタコ)から取得したデータによってドライバーが「今、どこにいるか」を把握できますが、倉庫側はリアルタイムの情報が見えないため、ドライバーが遅れているのか、順調なのかがまったくわからない。さらには、配送の完了報告も、ドライバーが電話で伝えていることが多いというのです。せっかくお金をかけて便利なツールを取り入れているというのに、自社だけに情報が閉ざされてしまうと「活用できている」とは言い難いですよね。
そこでまず、「各社それぞれ異なるツールを利用していても、情報を共有化できるようにするにはどうすべきか」という点に目を向けました。−― 倉庫とトラックの状況を誰がどの環境でも見える状態にできないだろうか…。昨今、社会問題として度々取り上げられているドライバー不足をカバーし、業務の効率化や生産性の向上を図るには何から解決すべきか。
人口減少やドライバーの高齢化、若手人材の不足など、ドライバーの人手不足には多くの原因が積み重なっていますが、「2027年にはドライバーが24万人不足する」というレポートも上がっていて、物流、とくに配送に関する課題解決は急務です。今すぐ人材確保ができないなら、不足分をどのように補っていくかを考えていかなくてはなりません。そこで、人手不足の本質的な理由を探るために実際の現場に足を運びました。そこで見た光景は、私たちの想像をはるかに超えるものだったのです。
労働生産性=ドライバー数 ×労働時間 × 稼働率
国土交通省の統計資料をみると、実際にドライバーの労働時間のなかで運転しているのは約半分ということがわかります。荷役と呼ばれているトラックから荷卸し、荷積み、棚入れや、順番待ちによる長時間の待機時間が発生し、実際に運転している時間=生産性が落ちてしまっている。荷物の積卸しをするために施設内でトラックを接車するスペースをバースと呼びますが、特定の時間に荷物の積み卸しが集中すると、ドライバーには長い待機時間が発生します。2017年から荷待ち時間の記録が義務化されましたし、この問題への深刻さについてはある程度ご想像いただけるかもしれません。
さらに、フォークマンは基本的にフォークリフトに乗って荷積みや荷卸しがメイン業務であるのに関わらず、トラックを呼び出すために構内を探し回ったり、事務員の方々もトラックの呼び出しのための電話や、「あと何分かかるのか」といった問い合わせ対応に追われていたりとバース周りの対応に多くの時間を割いていました。
ドライバーの待機時間や、倉庫側の呼出しや問い合わせ対応によって本来やるべき業務に集中できずにいるため、全体の流れや仕組みを変えていくところから着手していかなくてはならないなと気づきました。誰もが自分の業務に集中してもらうために、システム化できるところは、システム化していこう。それがトラック簿の開発へ繋がっていったのです。
物流施設という現場を所有しているので、目先の課題をすぐに拾い上げることができるのがGLPの強みですよね。
直接的に物流の業務を行っているわけではありませんが、先進的な物流施設だけでなく築年数が経過した古い物件も含めを保有していますので、サービスの開発にあたって、実際の現場を見せていただいたり、現場の方からどんな課題感を持っているのか伺ったりすることができます。それはGLPならではの強みでもありますし、サービス開発に生きる部分でもあります。リアルな現場や声を見て、聞いて開発ができるということは、お客様にとって本当の使いやすさ・欲しい機能を適切に提供できることにもなりますしね。
エンジニアの方も、実際の現場を見て気づいたことや意見をサービスの開発に活かしていると伺いました。
そうですね、なるべく開発を担当しているエンジニアにも現場に来てもらっています。そこで実際にどんな人がどのように活用しているのかを見てもらうんです。トラック簿のタブレット端末を入力するスピード感や目線をエンジニアが自分の目で観察することで、年齢層が高い方が多いからローマ字入力では打ちづらいだろう、10桁の数字にはハイフンを入れた方がわかりやすいだろうなど、細かな改修点を見つけることができるからです。それは非常に有意義なことですし、サービスの開発に重要な視点であると思っています。
なるほど。ここまでは開発のきっかけやどのように開発されているかについて教えていただきました。ここからは改めて、トラック簿のサービス内容について教えていただけますか。
まず、一つめとしてはバースの予約機能でトラックの到着時間を分散させたり、長時間の待機時間を削減したりできること。また、バースの状況を可視化できるので、紙やFAX、電話による非効率な作業も限りなく0にできます。そして、トラック簿の中でもっとも重要なのがデータの蓄積と分析ができる機能です。紙で保管をしていると、過去のものはそのままバインダーの中で放置されっぱなしになりやすいんです。経験則で何曜日・何時に混雑するのか、感覚値では理解しているかもしれませんが、データ化していないと新しい人が入った時に対応できませんし、いつまでも問題を改善することができません。全体の傾向がある程度わかれば、効率化のために何をすべきか、どうすべきかを考えることができますし、待機時間料が一斉請求された場合、どれほどのリスクがあるのかを想定できるようになります。だからこそ、データを取ることが重要ですし、データを活用していただきたいのです。
バースの大混雑時には、8時間も待つトラックが発生するそうです。そうすると次に何が起きるか。時間が無駄になるし、仕事も進まないのでドライバーからは「あそこの現場はお金をもらっても行きたくない」と言われるようになってしまう。つまり、効率の悪さから業務に支障が出て、最終的には企業の業績に響いてしまう、悪循環ができるのです。さらに、順番がズレたり、トラックが来る順番が分からなかったりすると、荷揃えや荷積みの準備ができず、倉庫内の作業効率が鈍化します。過去のデータがないと、スタッフとフォークマンの人員が適切かどうかもわかりませんし、最適化もできません。
国土交通省が推進している物流効率化法でも、トラックの予約受付システムの導入が勧められています。そのため、最近ではバースの予約システムがメインのサービスが数多く提供されるようになりましたが、トラック簿に関して言うと、バースの予約はあくまでも問題を解決する手段の一つだと思っています。本当に効率化を目指すなら、本来、トラックドライバーの拘束時間の内訳を把握することから始めるべきなんです。拘束時間と内訳がわかれば、手がかりが見つかります。バースの予約で解決できるかもしれないし、受け入れ時間自体を変更すべきかもしれない。なので、まずは倉庫に到着後、待機時間を経て荷物を積んで出ていくまでのデータを指標として取得し、現状を知る。そこからです。
私たちはオーバーフロー型と言っていますが、朝8時から一日中混雑している倉庫もあります。この場合、バース予約ではなく、バース数を増やすか、作業時間を削減するためにパレット化を推進するか、問題解決の手段は別軸になってきます。ただし、混雑が朝だけ、夕方だけの場合、バース予約により分散化すれば解決できます。必ずしもバースの予約が解決するのではなく、幅広い視点で問題を受け止め、解決の手段を考えていくべきなのです。
私たちはGLPが所有する物件で実際の課題を肌で理解していますし、これまでに多くの現場に訪問してきたため、さまざまなケースやノウハウが蓄積されています。ですので、より現場の視点で必要な機能を提供できる自信があります。
中編へ続く>>