物流業界の現状と今後:一連のヤマト運輸報道から考える
ここしばらくヤマト運輸の件が連日ニュースやメディアに取り上げられていましたが、奇しくも同時期に会社のアクティビティで同社が誇る巨大物流センター「羽田クロノゲート」に見学に行く機会がありました。今回は、同施設の見学を通して目にした同社の取り組みや一連の報道から、現状の物流業界と今後について考えてみようと思います。
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上述のヤマトグループの羽田クロノゲートは、なんと無料で一般公開されていて誰でも見学できるようになっています。ただ、事前予約は必要なので、見学を希望される方はこちらのサイトから前もって予約するようにしてください。
見学コースはトータルで1時間半ほどで終わるように設計されていて、同社の社員の方がガイドとなって丁寧に案内してくれるのですが、普段見ることができない物流ベルトコンベアやロボットの緻密な動きを見るのはとても新鮮でした。ここまで作業ロボットが正確かつ高速に動いているのかと圧倒させられるでしょう。
本メディアではこれまでに幾度も指摘していることですが、物流業界におけるドライバー不足問題、それと並行する小口荷物の増加、配達時間短縮化・再配達問題という三大問題が業界を厳しい状況に追い込んでいるという話をしてきました。以前の記事「物流業界の現状と課題 – AIは物流を救えるか?」においては、物流業界が抱える主要な問題について議論したりもしていますが、それが非常にタイムリーにヤマト運輸の実態としてニュースやメディアで取り上げられることとなりました。
そして、先日実際にクロノゲートで見聞きしたことを鑑みても、同社はこういった高度な物流ターミナルも構築し、いかに配送をシステマチックに効率化するかということにかなりのリソースを割いてきたかということが理解できたわけですが、それはつまり、裏を返せばこの領域においては今すぐこれ以上劇的に改善を図ることは難しいということでもあります。
もちろん、今後は Amazon の倉庫などと絡めてメディアに取り上げられているようなAI搭載ロボットなどが倉庫内作業や積荷作業などを一手に引き受けてくれるという世界も想定されているわけですが、それが一般の物流現場に広く導入されるようになるまでにはまだしばらく時間がかかるでしょう。
再配達率の高さが大きな課題
さきほど再配達問題について触れましたが、国土交通省のホームページ上には2017年2月28日の石井大臣会見要旨が掲載されています。「トラックドライバーの労働環境は、他産業に比べて長時間労働・低賃金の傾向にあり、ドライバー不足が深刻化しております。更に今、ネット通販等が盛んになりまして、少量・多品種の宅配便が増えているという背景があります」とのコメントが載っていて、これは必ずしもヤマト運輸に限ったことではなく、業界全体の問題として国土交通省も捉えているということがわかります。
また、 平成27年に公表されている国土交通省の資料「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」によると、宅配時における不在率が20%を超え、「宅配便配達の走行距離の内25%は再配達のために費やされていると考えられる」としています。これは膨大なロスです。ニュースやメディアでも争点のひとつとなっているのが、この再配達率の高さと、細かく刻まれた希望配達時間です。「過剰サービスではないか」という見方もあるようですが、「過剰」かどうかはともかく、増え続ける荷物を横目に現状のまま再配達リクエストを細かく受け続ける限り、現場の配送ドライバーたちの長時間労働や負担はかるくなるどころか増加の一方をたどるでしょう。
かつ配送ドライバーの労働条件が改善されないとなると、人員を急速に補充することが難しいわけですから、実質的に現状の配送の仕組みを変えない限り現場の苦しみが軽減されないのは確かでしょう。
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再配達率を下げるための取り組み
再配達率を下げるためにこれまで各配送業者が何も手を打ってこなかったわけではもちろんありません。
もちろん、誰かが常に家にいるという状況の家庭や、コンシェルジュが常駐しているようなマンションでは再配達問題は皆無に近いとは思いますが、単身暮らしであったり共働きの家などは不在率も高く、後日再配達や家以外の場所での受け取りを選択する人が多いでしょう。
コンビニ受け取り
都市近郊エリアでマンション住まいの単身者でも、周辺にコンビニがひとつもないというケースは非常に稀でしょうし、何より24時間いつでも受け取れるわけですから、どんなに忙しい方でも受け取ることが可能です。
そう考えると、このソリューションだけで大半の再配達が減るのでは?と思えなくもないのですが、依然として再配達はあります。理由の詳細は不明ですが、想像できる大きな要因としては、「コンビニまでわざわざ行くのが面倒くさい」ということなのかもしれません。
通常であれば玄関まで持ってきてくれるのが宅配なわけですから、自らコンビニまで行くのがとても面倒に感じるというのは理解できますし、緊急性がない荷物に関しては余計にそうでしょう。少し遅れてもいいから、在宅時間を選んでその時に持ってきてほしいとなるわけです。
宅配ロッカー
では、宅配ロッカーはどうでしょうか。下はヤマト運輸が提供しているサービスですが、こういった設置ロッカーが家から近くにあるという人は、ここで受け取るというオプションもあるでしょう。不在時の場合にメールとパスワードが届くようで、それを使って指定されたロッカーから荷物を受け取る仕組みです。
外付け宅配ボックス
下はパナソニックが提供している戸建て住宅に設置する用の宅配ボックスです。
マンション住宅には設置は難しい(スペース的にも)かもしれませんが、戸建て住宅であればこういったボックスを設置するというのはひとつわかりやすい再配達削減方法にもなりますが、設置コストが結構かかるようです。
なお、比較的新しいマンションは、玄関周りの共用スペースに不在時用の宅配ボックスを設定しているところも多いわけですが、居住人の受け取りがタイムリーでなかったりすることもあり、配達時に宅配ボックスがいっぱいで入れることができず結局持ち帰りとなるケースも少なくないようです。
サービス・料金体系の再設計
このオプションに関しては、これだけで問題を解決するというよりは、上述したソリューションの活用がさらに普及していくのを促進する効果があると考えられます。
サービスをどう再構築するかに関しては、こちらのダイヤモンド・オンラインの記事で非常に現実的な提案がされているので参考にしていただきたいのですが、再配達の時間枠などに制限をかけたり、プレミアムサービスをつくって細かい時間設定ができるようなサービスは有料化するという提案などが記述されています。
私もこの記事には概ね同意でして、人手不足や労働環境を改善するため、コンシューマーの宅配に対する期待値が上がり続けたりしないようにするため、そして上述のコンビニやロッカー受け取りのようなセルフサービスがより広範に使われるようになることで、物流業界全体が恩恵を受けて行く流れになっていくべきなのではないかと感じています。
今後の物流業界
クロノゲートの見学を通して現在の高度に発達した物流ターミナルや、仕分け・配送の効率化には現時点では限界があるでしょう。AI搭載の作業ロボットがすべての仕分けと積荷などもやってくれて無人のターミナルが24時間稼働するというような世界観は、さすがにまだ先になるでしょう。
また、最近話題になることが多い自動走行トラックでの配達などの実用化もかなり先のことになるでしょうから、直近の問題解決には貢献し得ません。Otto社の自動走行トラックも昨年の自動走行実験では単純な運行が続く高速道路上での自動走行を無事完遂しましたが、賽の目の様に走る住宅街の道を自動走行で宅配してくれることを早晩期待できるわけではありません。
もちろん、今後10年20年のスパンでは住宅街を走り抜ける無人自動配達車などが導入されてくる可能性もありますが、逆に言えばそれまでは間違いなく配達ラストワンマイルは人の手による作業であり続けるということです。そこを改善していくためには、上記のソリューションを全面的に推し進めて行く必要があると思いますし、特に「4.サービス・料金体系の再設計」がその成否の鍵となるのではないかと見ています。
(※「ラストワンマイル」の詳細に関しては、「運送におけるラストワンマイル。多様化する背景と物流の課題」もぜひご参照ください)
今回は、ヤマト運輸の労使問題を皮切りに、今物流業界がどういった状況にあるかということが広く世の中の知るところとなったのは、業界全体にとっても、その利便性にあやかっている私たちユーザー側にとっても、良かったのではないかと思います。
Amazonの即日配達サービスなどでECショッピングがますます便利になっている一方、その現場を支える配送事業者にどれだけしわ寄せが生じているかというのは、私たちユーザーひとりひとりが当事者意識を持って考えなくてはいけないことです。また、今後配送サービスの仕組みや料金体系などに見直しが入ることも想定しておくべきでしょう。