働き方改革を進めるため必要なこと【後編】働き方改革を車両管理システムで簡単に進める方法
全3回にわたるシリーズを締めくくる後編では、働き方改革を推進するため理解すべき「法的知識」を整理した後、具体的な車両管理システムの実践方法について、詳しく段階的に解説します。
目次
理解すべき「働き方改革関連法の項目」と「優先事項」
企業・組織が働き方改革を推進しながら成長するためには、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返す「PDCAサイクル」に則って、車両管理システムを運用する必要があります。このうち、現在抱えている働き方改革に関する課題をあぶりだし、改善目標を盛り込んだ車両管理計画を立てる段階がP(Plan)であり、そのために理解すべきなのが関連法の項目と優先事項です。
漏らさずチェック!働き方改革関連法の項目
まずは、働き方改革関連法施行によって企業が適合すべき項目と、それぞれの概要をまとめてみましたのでご覧ください。
No. | 適合すべき項目 | 概要 | 適用開始時期 |
1 | 残業時間の「罰則付き上限規制」 | 残業時間の上限は原則月45時間かつ年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければ超えてはならない。臨時的な特別の事情で労使が合意する場合も、年720時間以内かつ複数月平均80時間以内、単月100時間未満(いずれも休日労働を含む)を超えてはならない。原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとする。前出の時間外労働の上限を守らなかった場合、罰則として「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される恐れがある。 | 【大企業】2019年4月~ 【中小企業】2020年4月~ |
2 | 5日間の「有給休暇取得の義務化」 | 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対し、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることを義務付け。 | 【全企業】2019年4月~ |
3 | 「勤務間インターバル制度」の努力義務 | 勤務終了後から次の勤務開始までに、一定時間以上のインターバルを設けることで、労働者の休息時間を確保と実質的長時間労働を抑制する。たとえば10時間・11時間など、具体的なリフレッシュタイムを設定し、労働者の疲労蓄積を防ぐべきとする「努力義務」。 | 【全企業】2019年4月~ |
4 | 「割増賃金率」の中小企業猶予措置廃止 | 中小企業には適用が猶予されていた、月の残業時間が60時間を超えた場合、賃金割増率を50%以上にしなければならないという制度が撤廃される。 | 【大企業】適用済 【中小企業】2023年4月~ |
5 | 「産業医」の機能を強化 | 1ヶ月あたりの「時間外&休日労働時間」が80時間を超えた、労働者の氏名や勤務内容など、産業医へ健康管理に必要と考えられる情報提供を義務化。提供情報に基づく労働者の面接指導や、事業者に対する労務環境改善勧告の実施など、産業医の権限・機能強化。 | 【全企業】2019年4月~ |
6 | 「同一労働・同一賃金の原則」の適用 | 正規雇用者と非正規雇用者(短時間・有期雇用・派遣など)との間で、基本給や賞与など不合理な待遇差を設けることを法的に禁止。 | 【大企業】2020年4月~ 【中小企業】2021年4月~ |
7 | 「高度プロフェッショナル制度」の創設 | 年収1,075万円以上で、かつ専門知識を持った高度専門職従事者を対象に、労働時間規制や割増賃金支払いの対象外とする制度。(法的手続きの実施と本人の同意が前提条件) | 【全企業】2019年4月~ |
8 | 「3ヶ月のフレックスタイム制」が可能 | フレックスタイム制の清算期間が最長1ヶ月から3ヵ月に延長されたことで、より流動的かつ柔軟な勤務体制を構築可能になる。 | 【全企業】2019年4月~ |
この一覧表に沿って自社の服務規定および労働環境が全ての項目に適合しているか現状把握し、実現可能な改善目標を設定した「プランニング」からスタートしましょう。
なお、働き方改革関連法の各項目における、「適用開始時期」は事業規模によって異なり、以下で示す条件に当てはまらない企業は「大企業」に定義されるため、より速やかな対応が必要になります。
資本金の額、または出資金の総額
小売業・サービス業 | 5,000万円以下 |
卸売業 | 1億円以下 |
その他 | 2億円以下 |
常時使用する従業員数
小売業・サービス業 | 50人以下 |
卸売業 | 100人以下 |
その他 | 300人以下 |
「優先事項」に即した計画の立案が必要!
将来的にはすべての項目に適合すべきですが、次の優先事項を達成することが働き方改革関連法の根幹になっています。2つの優先事項に対し、改善すべき課題を計画に盛り込むことで、初めてPDCAサイクルにおける「Do(実行)」の段階へ進むことができるのです。
1. 時間外労働の削減・・・項目1・2・3・8への適合により、法律で定められた上限を超える時間外労働を徹底的に排除する。
改善すべき課題:
- リアルタイムな勤怠・動態管理による状況把握と適切な業務指示
- 作業の自動化による工数削減
- 人的・物的配分の最適化と業務内容の見直しによる生産性向上
2. 労働時間把握義務・・・労働時間を適正かつ客観的に把握できる勤怠管理システムを導入し、同時に項目4~7へ適合することで公平な待遇体制の整備や、労務環境改善に取り組む。
改善すべき課題:
- 従業員・車両の稼働データ取得
- デジタル・アナログ双方での管理体制構築
- 取得データの分析によるサマリーレポート作成
車両管理システムでわかること~何を・どう解決していくかを決定する~
有益な情報を簡単に入手できることが車両管理システムの利点ですが、具体的にどんなことがわかるのか、浮き彫りとなる課題をどう解決するのか、ここでは実践におけるポイントを整理しましょう。
優先事項1-1 GPSによる車両位置情報の入手とタスク管理
車両管理システムの基本にして肝と言えるのが、車載GPSによる車両位置情報の機能です。この機能はオフィスのパソコンだけでなく、スマホやタブレットからいつでも確認・管理できるのもメリット。位置情報に加え、以下の関連タスクを一元管理できるシステムを導入すれば、大幅な業務効率化による時間外労働時間の削減も実現できるでしょう。
- Who(誰が)・・・車両使用者・所属部署
- When(いつ)・・・出発&到着予定時間・使用期間
- Where(どこで)・・・目的地・移動ルート
- Why(なぜ)・・・移動の必要性・優先度
- What(何を)・・・車種・ナンバー・保険加入状況・同乗人数・積載貨物
- How(どうする)・・・商品運搬・会議出席・商談
優先事項1-2、運行日報の自動作成で負荷を軽減する
現在リリースされている車両管理システムの中には、事前に移動先を登録することで、手間と時間がかかる運行日報を自動作成する機能を有しているサービスもあります。車両保有台数が多い企業の場合は、運行日報の自動作成機能を兼ねたシステムを導入するだけで、管理者の工数削減による業務効率化が図れるほか、アナログ作業で発生しやすい入力ミスやデータの不整合など、ヒューマンエラーを防ぐ効果も期待できます。
優先事項1-3 データの見える化による業務改善・生産性向上
車両管理システムでは車載デバイスから送信されたデータをもとに、車両の運行状況が管理画面のマップ上で「見える化」できるため、訪問先に長時間滞在していないか・予定外のルートを走行していないか・渋滞に巻き込まれていないかなど、ドライバーの動態管理や渋滞回避ルートの迅速な指示といった業務改善を実現することが可能です。また、前述した関連タスクを表やグラフによって視覚化することもできますので、
- 車両使用責任の所在
- 使用頻度の高い従業員への安全運転教育実施
- 最適な運行スケジュール・ルートの設定
- 車両導入方法(購入orリースorレンタカーorカーシェア)の決定
- 稼働状況に基づく車両配置
- 保険加入状況確認・契約内容の見直し
- 燃料代の把握・エコドライブの徹底
など、生産性向上のため重要な「How to(どうやって)」というポイントを盛り込んだ、効率の良い車両業務改善計画を立てることができます。
優先事項2-1 走行距離・稼働時間データのリアルタイムな取得
車両管理システムは、走行距離やルートとともに稼働時間をデータとして取得できるため、離れた場所で勤務する従業員の労働時間を、正確に把握・管理することも可能です。
特に、定時・出勤日に車両が使用されていないか確認できるため、働き方改革関連法の中で最も重要な項目である、残業時間の「罰則付き上限規制」を遵守する上で、無くてはならないツールと言えるでしょう。
優先事項2-2 自己申告と取得データの整合性UPに伴う車両管理体制の強化
車両管理システムは、運行日報の自動作成やデータを可視化する非常に便利なツールですが、簡易な手書き日報の提出や従業員へのヒアリングなど、自己申告によるアナログ管理と取得データの整合性を管理者がチェックすることも大切です。その理由は、従業員が抱いている運転の意識と、組織が求める効率的かつ安全な車両管理の考え方には差異があるためです。デジタル管理とアナログ管理を併用し、労使双方のベクトルを揃え、全社を挙げて車両管理体制の強化に取り組みましょう。
その際、「システムで常に監視されている」という意識を抱かせないよう、従業員の安全確保や労働環境改善が車両管理を強化する目的であることを、経営者や管理担当者はアピールすべきです。
優先事項2-3 サマリーレポートによる進捗状況・効果の把握
サマリーレポートとはデータを要約して、数値・表・グラフなどで資料化したものを言います。改善計画の進捗状況や労働時間短縮などの効果を把握するためには、こうしたレポートが必須。車両に関わるデータは膨大ですので、すべてのタスクを網羅したサマリーレポートを作成するには時間・労力・コストがかかりますが、車両管理システムの中には、車両別の稼働日数・稼働時間・稼働率、集計期間別の稼働状況、使用者(従業員)別の労働時間推移などを一目で確認できる、「サマリーレポート作成機能」が備わっているものも多いため、導入すれば「PDCAサイクル」の「Check(評価)・Action(改善)」へスムーズに移行することができます。
車両管理によって働き方改革を実現するには「PDCAサイクル」を回し続けるべし
自社に必要な機能を備えた車両管理システムを導入し、ここまでに解説してきたポイント抑えてPDCAサイクルを構築できたとしても、それで働き方改革への備えが万全になったとは言えません。なぜなら、少子化に伴う人材不足の悪化など企業を取り巻く環境は日々目まぐるしく変化しているほか、「働き方改革関連法」は
1. 労働基準法
2. 労働安全衛生法
3. 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
4. じん肺法
5. 雇用対策法
6. 労働契約法
7. 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
8. 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
といった8法を改正する法律の通称に過ぎず、今後微調整や追加改正される効能性が高いからです。また、道路交通法や道路運送車両法といった関連性が強い法律の改正もあり得ますので、PDCAサイクルを回し続け、車両管理体制を進化させ続けていきましょう。各メーカーは、環境変化や法改正に適合する車両管理システムをリリースしたり、既存システムのアップデートを実施したりしていますので、経営者や管理担当者は最新情報をチェックし、アップデートができるようにしてください。
まとめ
今回は、働き方改革を車両管理システムで進める方法について解説しましたが、安全運転意識の高まりによって交通事故が減れば従業員の安全確保だけではなく、企業としての社会的貢献度が向上するメリットも期待できます。働き方改革と生産性向上の両立は大変ですが、実現すれば企業が得られる恩恵は多岐にわたりますから、スムーズにかつスピーディーな業務改善を可能とする、車両管理システムの導入を検討してください。