運送業界、気になる2018年の動向は?
買い物に行かなくてもボタン一つで欲しいものが家に届く時代になりました。オンラインでの買い物は今後もさらにニーズが増え、さらにはネットやアプリで簡単に商品を売買できるサービスも勢力を伸ばし、物流業界全体の経済的な成長は引き続き右肩あがりの状態が続いています。
国内における運送の6割以上を占めている物流のトラック。昨今人手不足や再配達など話題に事欠かない運送業界ですが、この問題は一般の消費者にも影響を及ぼすものでもあります。景気の変動にも強く安定した物流業界は、主に倉庫業と運送業に大別できますが、今回は昨今の人手不足により様々なニュースが飛び交う運送業界の動向についてみていきましょう。
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運送業界の大きな見直しがされた2017年
トラック事業における競争を促進し、貨物自動車運送分野における利用者利便の増進への寄与を目的として1990年12月に施行された物流二法。貨物運送取扱事業法と貨物自動車運送事業法の二つを合わせたこの法律によって新規の参入障壁が引き下げられましたが、これによって運送会社の価格競争は激化し、特に昨今では「送料無料」や「全国一律料金」の文字が当たり前のように並ぶようになりました。これでは荷物がどんなに増えようと、運送会社の売り上げに直結するとはいえず、負担だけが増えるばかり…。
そこで国土交通省と厚生労働省が共同で2015年5月に設置した「トラック輸送における取引環境・長時間労働改善中央協議会」の下に「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」を立ち上げ、適正運賃・料金収受に向けた方策等についての検討を進めてきました。そこでトラック運送事業における適正な運賃・料金の収受に向け、国土交通省は2017年8月4日に標準貨物自動車運送約款を改正するとともに、貨物運送事業における運賃及び料金の定義を定めた通達「一般貨物自動車運送事業における運賃及び料金について」を自動車局貨物課長より発出、11月4日より施行。
標準貨物自動車運送約款等について、以下のような改正を行うことにより、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を適正に収受できる環境を整備するとしています。
(1)運送状の記載事項として、「積込料」、「取卸料」、「待機時間料」等の料金の具体例を規定
(2)料金として積込み又は取卸しに対する対価を「積込料」及び「取卸料」とし、荷待ちに対する対価を「待機時間料」と規定
(3)附帯業務の内容として「横持ち」等を明確化等
そのほか、2017年は運行管理計の装着義務の拡大や荷待ち時間の記録を義務化するなど、様々な施策が実施されました。変わりつつある経済と社会の大きな環境変化。運送業界の稼働状況を考えると、賃金の適正化は急務だと言えるかもしれません。ヤマト運輸も10月1日に27年ぶりに値上げしたことをプレスリリースで発表し大きく注目を浴びました。これらの対策によって今年以降運送業界全体で大きな改善が見られるようになるかもしれませんね。
国全体で取り組む「物流生産革命」
長時間労働なのに他の業界と比べると決して賃金が高いとは言えない運送業界。深夜に商品を注文しても翌日には届く。サービスが過剰になればなるほど負担が大きくなるのが、末端を支える物流業者であり宅配会社です。
トラックの積載率が41%に低下するなど、非効率な運送が続いていることを危惧し、2020年度までに物流事業の労働生産性を2割程度向上させることを目標に、物流に関するプロジェクトを次々と進めているのが「オールジャパンで取り組む『物流生産性革命』の推進」です。
全配達の2割に達している荷物の再配達、1運行につき発生する平均2時間弱の荷待ち時間、トラックの輸送能力の約6割が未使用であり約4割の荷役業務で対価の支払いがないなど、運送業界を筆頭に発生している数々の問題。そこでこれらの問題を解決すべく国内の物流力を集結し、荷主協調のトラック業務改革や自動隊列走行の早期実現させる「成長加速物流」、受け取りやすい宅配便といった「暮らし向上物流」を二軸の強化をしようと努めています。
また、トラック輸送を向上させるために特車許可基準を穏和し、1台で大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」の導入も検討されています。これは、現在、通常の全長12メートルほどの大型トラック(10トントラック)で行っているものを、特車許可基準の車両長を穏和し、21メートルから25メートルへの改変するというもの。
2017年10月16日には、物流大手の福山通運が愛知県北名古屋市と静岡県裾野市の事業所間で日本初となる全長25mの「ダブル連結トラック」の実験運行を開始しました。国土交通省による「ダブル連結トラック実験」は新東名高速を中心としたルートで行い、2018年度の本格導入を予定しているといいます。
また、ヤマト運輸は同業他社と高速道路での共同輸送を検討しており、2017年内にも東名高速で実証実験を始め、早期導入を目指しています。業界大手の佐川急便や日本通運、西濃運輸などと連携して実施し、先頭のトラックは各社が分担。首都圏内は一方通行であったり道路が狭く、大型トラックでの配送は効率的とは言えないため、高速道路以外では各社が自前で配送。実験では現行規制に基づき、連結したトレーラーを含めて全長が21メートルとなるトラックを使用しました。上記の規制が緩和され次第、より長いトラックでの利用も計画するといいます。
トラックに他社のトレーラーを連結しドライバー1人で2台分の荷物を運ぶ共同輸送は、ドライバー不足の緩和と配送の効率化につなげる狙いがあります。
輸送力が今までの二倍になるこの取り組みは、運送業界の効率化を急速に塗り変えていくかもしれません。
ドローン配送と自動運転車が実用化に向けて
国土交通省は最短で2018年中にドローンを使った荷物配送を可能とすることを目指し、安全確保を前提としながら事業化に向けた検討を進めています。小型無人機(ドローン等)を物流に活用するには、荷物を運んでおろすというような複雑なプロセスを操縦者なしかつ目視外の飛行で、安全に行うことが必要不可欠です。一方、現在のドローンの機体性能では飛行することが可能な総重量は限られており、機器搭載による機体重量増加を抑えつつも、安価に対応することが求められています。
そこで「交通運輸技術開発推進制度(※)」を活用し、自動離着陸が可能でかつ安価に設置できる物流用ドローンポートシステムの研究開発を行うため、2016年より定期的にドローンポート連絡会を開催し意見交換などをして着々と準備が進められています。
※民間を含めた研究実施者から広く研究課題を募ることにより、安全安心で快適な交通社会の実現、環境負荷低減といった交通運輸分野の課題解決に向けた優れた技術開発シーズの発掘を目的とした競争的資金制度。海上交通、航空交通、陸上交通、物流などの交通運輸分野の技術開発を推進するための委託による競争的資金制度で、研究課題により生じた特許検討の知財財産権については日本版バイド-ル法を適用する。
同省は2017年11月13日にブルーイノベーションと東京大学と共同で、長野県伊那市で飛行ロボット(ドローン)を使った荷物輸送の実証実験を行いました。離着陸の支援や風速・風向などの予測、第三者の侵入検知など、各種システムを統合して活用し、荷物輸送に関わるシステムが正常に機能するかを確認。実証実験は伊那市の美和郵便局―道の駅南アルプスむら長谷間で、ドローンが荷物を輸送しました。一連の流れは郵便局員が注文票を入れた箱をドローンに取り付け道の駅に飛行し、道の駅で店員が箱詰めした注文の品をドローンが郵便局に戻って郵便局員が商品を受け取るというもの。ますますドローンでの配送が現実味を帯びて行きましたが、安全への配慮など、導入までには一つずつ課題を解決していく必要があります。
また、11月11日から17日まで、滋賀県の道の駅「奥永源寺渓流の里」で自動運転サービスの実証実験を実施。集落と道の駅を結ぶ区間で配送実験を行うや運転手不在で自動走行する「レベル4」の自動運転を行いました。全国13カ所で段階的な実験を展開する予定で、急速に進む少子高齢化に夜山間地域の人流と物流の両方の確保を目指し、道の駅などを拠点とした自動運転サービスを2020年までに実装する方針です。11月18日から25日までは道の駅「ひたちおおた」で公募型としては全国初となる自動運転サービスの実証実験を行っています。
ビジネス化に向けての実験では、地域での宅配便事業の集荷・発送業務や貨客混載輸送を行う高速バスと地域路線バスとの連携による地元農産品の集荷・配送が考えられています。
安全・安心に稼働させるためにはまだ数回の実証実験を重ねなくてはなりませんが、いよいよ“無人化の配送”が現実味を帯びてたようです。本格的な導入とともに、多角的なビジネスの可能性も見い出すことができそうですね。
受取り手の意識を変えていく
運送業界だけが再配達などの問題を解決できるわけではありません。効率的な配送、つまり再配達や再々配達の負担を軽減させるには荷物を受け取る側にも意識の変革や柔軟性が必要です。先ほど述べた『物流生産性革命』においても、宅配事業者が利用可能なオープン型ロッカーの設置や導入場所の拡大が掲げられました。ヤマト運輸は2022年までにオープン型宅配ロッカーの「PUDO」を約5,000か所以上への導入することをめざしています。急速な普及が進んでいるため、2017年は街中や駅で見かけた人も多いのではないでしょうか。「PUDO」はヤマト運輸だけでなく、順豊エクスプレスや佐川急便も利用できるようになっていますが、現在はまだ一部地域のみです。今後さらなる普及が予定されていますが、一社だけではなく、全宅配業者が呼応し一体となって配送の効率化を叶えることに期待が寄せられています。
一方、2017年はEC事業者自身による一部地域の自社配送や店頭受取りなど、宅配業者を介さない新たな受け取り方法も一気に普及が拡大しはじめました。2014年に設立したECやカタログ、TVの通販企業など、年間1億3,700万個を出荷する荷主企業で構成される「宅配研究会」。同協会は宅配が安定的供給と安定的価格が続けられるよう、宅配事業者と連携して物流の安定供給・安定価格をめざすプロジェクトを進めています。繁忙期には3割にも増える再配達。一日に150個荷物を運ぶドライバーの場合、プラス30個もの荷物が再配達になります。特に12月は忙しいにも関わらず不在率はアップ。時間指定をしているのに2回目の配達時も不在というケースは少なくありません。
そこで宅配研究会のプロジェクトとして誕生したのが、再配達問題を解決するアプリ「ウケトル」です。ウケトルは通販サイトとの連携を進め、導入した店舗を利用した購入者は「荷物の自動追跡」「通知」「ワンクリック再配達」機能で、荷物を確実に1回で受け取り再配達コスト削減できる環境作りをめざしています。
株式会社トレイルは、ドライバーが配達先へ近づいたタイミングで自動で配達先へ架電し、配達予定を連絡するサービスを開発・提供しています。荷受人は電話のプッシュボタンを押すことで在宅・不在を回答することができ、応答がない場合や不在の場合はリアルタイムでドライバーへ通知するという仕組み。不在通知を受け取った人の50%は、帰宅後となる18時以降にドライバーへ直接電話をかける人が多くいます。架電があると、その都度ドライバーが停車して電話を取り荷物を届け…を繰り返しているだけで配送の効率はグンと落ちます。
このちょっとした手間をドライバーが移動中に自動音声で伝えることで、無駄な配達を減らすことが可能なるのです。
こうしたサービスは運送業界だけを手助けするのではなく、購入者の意識を変えてお互いの負担を減らすという、良い循環を生み出して行くのではないでしょうか。
運送業界から発信、ハコブ改革
サービスを向上させるために、イノベーションを起こし続けるヤマト運輸。荷物の配送を効率化するためにクロネコメンバーズのサービスをより簡単に連携できるEC事業者向けのAPIの公開を開始し、EC事業者向けソリューション「EC自宅外受け取り」サービスを展開し始めました。これは消費者がネットショップでの商品購入時に、全国2万5,000ヵ所以上のヤマト運輸の営業所やコンビニエンスストアなどの取扱店を受け取り場所として指定できるという機能。GMOペパボのカラーミーショップを皮切りに続々と導入が広がっているようです。自宅で待っていなくても自宅近辺のコンビニや最寄り駅などで荷物が受け取れるため、再配達の減少やドライバーの負担減につながっています。
また、国土交通省が推進する「地域を支える持続可能な物流ネットワークの構築に関するモデル事業」の一環として、ヤマトホールディングスは2016年4月27日より佐川急便や日本郵便の宅配業務を請け負う新たな取り組みを、東京都多摩市の「多摩ニュータウン」で開始しています。このモデル事業とは、過疎化が進む地域において物流の効率低下や車を運転しない人も増え、日用品の宅配などの生活支援サービスの需要が高まっていることをうけ、宅配サービスの維持や買い物が困難な肩の支援に役立つ新たな輸送システムを自治体と連携しながら構築するというもの。配送スタッフの確保や再配達の対策の課題を他社と連携することで物流業務の効率化を図るべく、子会社であるヤマト運輸が、自社の荷物と他の配送業者の荷物を一括で顧客に届けるといいます。
さらにヤマト運輸、佐川急便、日本郵政など、企業と地方自治体が相次いで包括連携協定を凍結。人口減少で税収が伸び悩むなか、企業固有のノウハウやネットワークを活用したい自治体と蓄積されたノウハウを武器に企業が地域課題を解決することで、互いのリソースを持ち寄った企業と自治体のサステナブルな取り組みが増えているのです。
企業にとっては販路拡大や地域活性化と地域に寄り添ったサービス向上が最たる目的。荷物を届けるだけではなく、災害時の被災者への食料・生活必需品などの供給を迅速かつ円滑に実施できるよう環境を整えたり、交通ルールや交通安全の知識を伝える活動を積極的に実施するなど、その取り組みはただ「荷物を運ぶ」という枠組みを飛び越え新たなサービスに変化しています。
配送スタッフとして地域住民を積極的に採用するということで、地域の活性だけではなく雇用の創出にも寄与していくことでしょう。
まとめ
アナログなイメージを持たれがちな運送業界は、競争過多や人材不足による業務の非効率など多岐にわたる多くの課題を抱えています。遅れをとっていたITの導入を積極的に進め、AIやIoTといった最新の技術を取り入れながら、新しいサービスも次々に生まれているのです。配送手段もトラックだけではなく、自動運転車やドローン、ロボットによる無人化配送など、新たな配送手段も今後は徐々に整備されていくでしょう。日本におけるドライバー不足は、地方に行けば行くほど深刻。しかし、今後、荷物を運ぶ手段においてドローンや自動運転車を走らせることができれば、地方も大きく状況が変わっていくことでしょう。
2018年の運送業界は急速に変化しつつありますが、
・地域や他社と共同で興す新たなシステムの構築
・無人化配送の実用化へ
・受け取る手段の多様化と拡大
これらの動向について、ますます目が離せなくなりそうです。