目指すは業界全体のDX –車両管理システムをカスタマイズして、材木物流の効率化に挑戦!
「DXの事例紹介」「DXを行うために必要なツールは?」などDXに関する話題は尽きることがありません。元外資大手のコンサルタントが材木卸というレガシーな産業でどのようにDXを実践するのか?
華麗なキャリアを歩んできた望田氏はレガシーで斜陽産業と言われる材木卸にイノベーションを起こすべく、東集の代表取締役に転身しました。インタビューをしている時に感じたのは、困難に立ち向かいながら改革を進める強い意思と、現場の方々に寄り添う優しさでした。
そして、自社だけでなく材木物流全体の業務を効率化するために、開発した材木配送最適化サービスについても紹介します。
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華麗なキャリアから材木卸業への転身
まずは望田さまの自己紹介をお願いできますか?
私は2020年の1月にクレストホールディングスに取締役COO&CSOとして参画しまして、2020年5月より材木卸業の東集という会社の代表取締役でもあります。
経歴としましては、早稲田大学の卒業後、リサ・パートナーズというPE(プライベート エクイティ)ファンド部門に所属。未上場の企業を買収して企業価値を高めて売却する、ということをしておりました。ドラックストアや回転寿司、ビルメンテナンス、電子書籍など様々な企業を担当させていただきました。
その後、PwCコンサルティングの戦略チームに転じまして、BDD(事業性評価)、PMI、業務改革、DX(デジタルトランスフォーメーション)等、様々なテーマを経験させていただきました。新規事業創出も担当させていただいた際には、ローソンの成城石井の買収やPepperの市場開拓支援などにも関わりました。
華麗な経歴ですね!なぜクレストホールディングスに転職したのですか?
もともとクレストホールディングスの代表である永井とは高校時代の同級生でして、様々な相談に乗っていました。そして、クレストホールディングスグループの理念であるLegacy Market Innovation®はレガシー産業の漸進的成長を遂げ、その収益を活用してその産業に対するイノベーションを起こすというモデルなのですが、この考えに私自身が思いっきり共感しちゃいまして、気がついたらクレストに参画していました(笑)
クレストホールディングスは材木卸の東集を2019年9月に子会社化していますが、東集について教えていただけますか?
東集は、昭和31年の創業以来木材・木製品卸売業者として深く業界に根付いている、建築関連業界から信頼を集める老舗企業です。材木卸売業界の中でも、早くから集成材という領域に特化しており、現在に至るまで堅調に事業を継続させてきました。
皆様が自宅を建てようと思った際に、対面するのは工務店さんや、設計事務所の方々になりますが、工務店さんに材木を卸すのが材木販売店です。我々はこの材木販売店に材木を卸す材木卸という立ち位置になります。
材木卸の東集が取り組んだDXとは?
レガシーな企業をデジタル化によって生産性を高めるために、どのようなことを行ったのでしょうか?
「ツールの導入」と「情報の集約」の2つに大きく分かれます。
まず、ツールの導入ですがガラケーの使用をやめて、スマートフォンを配布するところからのスタートしました。次にインターネットの回線速度を上げるため、ADSLから光回線に、そしてデスクトップからノートパソコンへの移行など、様々な取り組みを実施し、顧客管理システム(SFA)やMA(マーケティングオートメーション)、ERPの導入も進めました。
次に、情報の集約です。紙によるやりとりが非常に多かったので、とにかくクラウドにデータを集約することにフォーカスしました。たとえば、FAXを減らしたかったので、FAXで受け取った紙はメールで転送するという、一見すると非効率に見えることも行いました。
こうした取り組みの効果として、生産性が6%ほど上がり、直行直帰も増えて残業時間も大幅に減らすことができました。
まさに怒涛の勢いで改革されたのですね。一方で、現場からのハレーションなど、苦労された点について教えてください。
全角と半角の切替方法など一から教える必要がありましたし、デスクトップを長く使っていたため、ノートパソコンを使って外で仕事できるにもかかわらず、オフィスに戻って仕事したり...。受信したメールを印刷してラックに並べて優先順位をつけていたので、印刷せずとも優先順位を付けられる方法を教えたり...。最初は苦難の連続でした。
人はどうしても変化することに抵抗感を持ちますので、できない理由を並べてしまいがち。よく言われることでもありますが、DXは本当に難しいのです。だからこそ、トップが「絶対にやり切る」という強い意思をもって決断し、実行することが何よりも重要です。そして、人がツールに使われている状態だといつか限界がきてしまうので、「人がシステムに適応」できるよう、しっかりと寄り添うことが必要で、根気強さと優しさも併せ持つ必要があるでしょう。
かなり苦労されたのですね。今回のインタビューの主題でもある東集が開発したモビリティーサービスもDXの一貫でしょうか?
そうですね。業務における基本的な部分についてはかなり効率化できましたが、材木物流の業務の効率化はできていませんでした。そこで、どういった業務に工数がかかっているのかを観察し、効率化できる所はないか考えました。
その時からSmartDrive Fleetを利用していましたので、この車両管理システムを材木物流の業務効率を改善するシステムとして、活用できないかと考える日々がスタートしましたね。
(東集ウェブサイトより)
短期間で開発できた、MOCCI (木材配送最適化サービス)について
材木物流ではどのような課題があったのでしょうか?
我々の業界では、電話とFAX(紙)を利用するのが普通でしたので、システムをあまり活用してこなかったのです。すると、弊社の社員は「荷物はいつくるのか?」「荷物は今どこにある?」という問い合わせの電話対応に多くの時間を取られていましたし、木材がどこにあるのか調べるため、FAXを確認しにオフィスにわざわざ戻ってくる必要もありました。
スマートドライブのクラウド車両管理システムでは、車両が今どこを走行しているかリアルタイムに把握できますし、安全運転しているかどうかもわかります。さらに、ジオフェンス機能を活用することで、特定の地点に車両が近づいたら、車両管理者へメールで通知を出すこともできます。こうした機能を活用することで、すでに車両管理業務の効率化には取り組んでいたのですが、荷物の居場所確認のための電話を撲滅するには至りませんでした。そこで、荷物がいつ頃にお客様の元に届くのかを共有できれば、電話による確認作業を減らせるのではないかと考えました。
そうして作り出されたれたのがMOCCIでしょうか?
そうです。MOCCIは Mobility Optimization Construction matrial Carriage Intelligenceの頭文字を取ったものでして、わかりやすく言うと木材配送最適化サービスのことです。このシステムを活用すると、車両が配送先に近づくと「配送車が近くまで来ましたよ!」と知らせることができます。
お客様にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
配送車が近くまで来ていることを知ることができれば、事前に空きスペースを確保したり、フォークリフトを用意したり、といった荷受けの準備ができます。また、到着時間が読めないと休憩も取りにくいですよね。シンプルな機能ですが、自社だけでなく取引先の業務も効率化できます。実際に開発する前段階で、荷受け側の企業にヒアリングしたのですが「荷受けの準備ができるのは業務が非常に楽になる」といったコメントが多く寄せられました。
スマートドライブの車両管理システムを活用してMOCCIを開発したとのことですが、開発期間について教えてください。
基本設計は1ヶ月くらいで、α版は1週間ほどで完成しました。かなりスピーディーに開発できたと思います。というもの、MOCCIをゼロから開発するとなると、車両の走行データを取得して、データを解析・加工し、サービスを作る、という行程が必要になるので時間も工数もかかります。ですが、SmartDrive FleetにはすでにMOCCIのサービスに必要な機能やデータがほとんど用意されていたので、あとは若干のカスタマイズを加えるだけで済みました。
オンラインショッピングを利用した際に配送通知が届くサービスを使ったことがある方もいるかもしれませんが、これに近いイメージです。一般的に使われているものなので新しさはないように見えるかもしれませんが、我々の業界にはこうした仕組みがなかったのです。
MOCCIは今後、どのように発展していくのでしょうか?
これはあくまで構想段階ではありますが、荷受け側の状況をしっかりと把握できるようにし円滑なオペレーションを行えるようにしたいと思っていますし、配送ルートの最適化にも挑戦したいと思っています。現在の走行状況、安全運転の度合いの可視化はすでにできていますが、荷台の空きスペースの状況も可視化したいと思っていまして、空きスペースを同業他社にも貸し出して共同配送することで、自社だけでなくステークホルダーも含めた効率化を目指しています。東集だけがDXしても、成長には限界がありますので、業界全体でDXして木材業界、延いては林業界の価値を高めていきたいと思っています。
テクノロジーの力で業界全体の永続的な成長に挑戦
先ほど、業界全体の価値を高めたいという話がございましたが、同業他社の方々に向けて何かメッセージはありますか?
世界ではテクノロジーが発展し、人々の生活や産業構造など社会全体が大きく変化しています。これまで同業他社との競争環境に目を向けていればよかったものが、まだ創業間もないスタートアップといわれる新興企業が他業界からやってきてテクノロジーを駆使した大きな業界変革を起こし、既存企業は淘汰されてしまいます。タクシー業界におけるUberやホテル業界におけるAirbnbと言えばわかりやすいのではないでしょうか。
スタートアップが業界を破壊していく姿は華やかで、まるでそれだけが唯一の道であるかのように取り沙汰されますが、私は”Startup is God!(スタートアップだけが最高だ!)”とは思いません。業界の外からやってくるスタートアップは固定概念に囚われない新たなアイデアを創造することができますが、逆に長い歴史を持った既存企業だからこそ見つけ出せる本質的な価値があると確信しています。既存企業が自社や産業の本質的な価値を見出し、テクノロジーを使って市場への価値の届け方を変えることで、既存企業が自ら変革していくことは十分に可能であると思うのです。
東集は実際に変革に挑戦しているので、説得力がありますね。最後に今後の展望についてお聞かせください。
古き良き歴史を重んじながら伝統的な産業にイノベーションを起こすクレストホールディングスグループである東集は、企業理念である「住む人にハイクオリティーな生活空間を創造する企業」を目指し、そのためにお客様にとって本質的に最適な価値を生み出すために、日々変革を行っていきます。林業界を含めたバリューチェーンの最適化、業界にマッチした形でのデジタル活用による電話と紙文化からの脱却、生活空間という人にとって大事なものである木材に関する業界全体の情報発信、デジタルだけでは解決しきれない物流というリアル世界の効率化などに挑戦していくつもりです。
我々は自社だけが業界の勝ち馬になろうとは思っておりません。業界全体として本質的に最適な価値を生み出していくことを目指しております。ステークホルダーを含めた関係者様の皆さまと一緒に業界が永続的に成長可能な挑戦を続けていきたいと思います。