この記事を読むと
- 社用車の私的利用によるリスクを理解できる
- 事故発生時の責任の所在を把握できる
- 私的利用を防ぐ具体的な対策がわかる

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業務用途で使用することが前提の社用車。ただ、それを福利厚生の一環として社員に貸与している会社があります。
社用車(営業車)を業務以外で使用する場合、たとえば事故が起こった際の扱いなどあらかじめて把握しておかないと後々トラブルの原因になることも。そこで今回は社用車(営業車)を私的利用する際のポイントを紹介します。
社用車の個人使用は原則禁止?
社用車は業務で使用するためのものであることが前提です。そのため、社用車の個人使用は原則不可とされていますが、法律上では社用車の個人使用は禁止されておらず、違法ではありません。
多くの企業で私的利用が原則禁止される理由
多くの企業では、法的責任や税務調査での指摘、車両管理・安全管理の問題など、さまざまなリスクが伴うことから、個人使用を禁止としています。
社用車は、業務利用されることが前提です。そのため、個人的に使用した費用を経費で計上すると、税務上問題になる可能性があります。それだけでなく、法人名義で加入している社用車の自動車保険については、業務外で起きた事故には保険が適用されず、会社に多額の賠償金や修理費用が求められることも否定できません。
リース契約で社用車を借りている場合、トラブル防止の観点から契約内容で私的利用が禁止されていることが多く、違約金が発生する場合もあります。
個人使用が例外的に認められるケース
会社が定めた車両管理規程やルールの範囲内で従業員が個人使用する分には問題はありません。
リスクを軽減し、トラブルの原因をつくらないためにも、使用範囲や距離制限、事故発生時の責任や処分についてルールを厳密に定めた規程を必ず用意し、周知徹底してください。
なお、使用範囲外での利用や無断で個人使用をした場合、「業務上横領罪」に問われる可能性がありますのでご注意ください。
知っておくべき個人使用の5つのリスク
交通事故発生時の責任問題
自社の従業員が社用車を個人使用している時に交通事故を起こした、または事故に巻き込まれた場合、運転していた本人だけでなく、会社側にも「使用者責任」と「運行供用者責任」が問われ、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
「使用者責任」は、従業員が社用車を個人使用していた際に交通事故やトラブルが発生した場合、所属する会社にも賠償責任が発生するというものです(民法 第715条(使用者等の責任)。
一方「運行供用者責任」とは、従業員が交通事故を起こした際に、その車両を運行させている立場にある会社にも責任が生じるというものです(自動車損害賠償保障法3条)。さらに、会社の安全配慮義務を問われる場合もあります。
会社がこのような法的責任を問われるケースを理解した上で、万が一の事故に備え、事故時の責任や処分などについてより厳密なルールを策定してください。どのようなケースで会社も責任を問われるのか、起こり得るケースを洗い出して整理をしておきましょう。
税務調査で指摘される可能性
法人名義で車両を購入した場合、購入費用や維持費を経費として計上することができますが、社用車を個人使用していたにも関わらず、業務で使用していたとして経費を処理してしまうと、本来は経費として計上できない費用であるため、税務調査で指摘が入り、追徴課税が発生する可能性があります。
業務使用と個人使用を明確にするためには、業務記録簿(運行記録や運転日報)を作成し、正しく記録を残すように徹底しましょう。記録簿には、走行日時、走行距離、訪問場所、目的、そのほか気づいたことが記載できるようにしておきます。動体管理システムやGPSを導入すれば、自動で正確な運行記録を取得し、抜け漏れを防止した高度な管理が実現できます。
会社の社会的信用の毀損
社用車に、会社が特定できるサービス名、ロゴ、住所や電話番号などの企業情報が記載されていることもあるため、交通事故や危険運転などのトラブルを起こすと、会社に対しネガティブなイメージを与えてしまう可能性があります。近年は、危険運転や事故の様子をスマホで撮影し、SNSへ投稿されるケースもありますが、たとえ間違った情報でも一気に情報が拡散されてしまうので注意が必要です。
会社の信頼を一気に損なうことになりかねないため、従業員に対して日頃から適切な安全運転教育や指導を行いましょう。
車両の盗難や情報漏洩のリスク
私的利用時は、自宅や商業施設、コンビニ、路上などで駐車をすることが想定されますが、その際に注意したいのが盗難です。年々、巧妙な手口が増えており、盗難発生場所は一般住宅と駐車場が半数以上を占めています(自動車盗難等の発生状況等について)。
万が一、社用車の中に重要書類やパソコンを置いたまま盗まれてしまった場合、情報漏洩が起きる可能性があります。個人使用を許可する場合は、セキュリティシステムやGPS追跡装置の搭載や、盗難防止グッズの使用など、対策を講じたうえで運用しましょう。
管理コストの増加
社用車は日頃から紫外線や排気ガス、泥はね、雨など、ボディが外的なダメージを受けて劣化が早まりやすくなります。安全な走行を維持するには、こまめなメンテナンスが欠かせません。しかし、業務に加えて私的に使用されていると、その使用頻度によりますが、部品を取り替えるペースが早くなるなど、通常利用している社用車の倍近くメンテナンスコストがかかることも考えられます。
社用車を個人使用する際に設定すべきルール
社用車の個人使用を許可する場合、個人使用に関する規則やルールを明確化したうえで社用車の運用規定に具備すべき条件を盛り込み、従業員に周知徹底させることが重要です。
使用許可の申請と承認プロセス
個人使用を許可する場合は、「事前申請・承認」を制度化したうえで運用しましょう。
会社としての車両管理方針や損害賠償などについて明記した運用規定を用意し、内容を全て理解したことを確認してから社用車の使用申請を提出してもらいます。申請書には、交通法規を守ること、飲酒運転やながら運転などの危険運転は絶対にしないこと、社用車の運用規定を遵守することなどを記載します。業務での使用時に危険運転が多い、または事故を起こしたことがある社員については否認するなど、過去の運転記録をもとに承認を行いましょう。
許可される使用範囲の明確化
社用車の個人使用を許可する際は、使用範囲を明確化します。
「一日外出の予定があり、合間や終業後に休憩をとる際は使用可能とする」「休日のレジャーや買い物、引っ越しでの使用は禁止」など、従業員の勤務形態と併せて使用許可の範囲を設定しましょう。
費用負担の具体的なルール設定
使用範囲を明確にしたうえで、社用車を個人使用する際に負担する費用についてのルールを決めます。たとえば、社用車を終業後に使用し、買い物や食事に行った場合、その際のガソリン代や駐車場代、高速代は従業員が支払うなど、負担のルールを詳細に決めましょう。
また、個人使用時の事故や故障、トラブルの際の費用や責任、発生時の対応フローなども万が一に備えて細かくまとめて書面化しておきましょう。
社用車の私的利用の例
寄り道
●営業スタッフが次の顧客先に向かう途中、コンビニに寄って買い物をし、30分程度、駐車場で休憩をした。
環境庁大気保全局の発表では、アイドリング10分あたりの燃料消費量は0.14ℓ、二酸化炭素排出量は90g。環境保全も考慮すると、私用だけでなく、業務中も駐停車中の無駄なアイドリングはしないことをルールに入れるべきでしょう。
●会社から近い距離なのに遠回りをして客先に向かっていた。
配送ルートを効率化することでコスト削減や業務効率アップにつながります。
●打ち合わせと打ち合わせの合間に時間があったので、時間を潰すために商業施設へ訪れた。
盗難や事故のリスクが高まります。
休日利用
●祭日や休日などに(単身赴任などのケースで考えられるパターンです)単身、または家族などと出かけていた。
●旅行に行く際に使用した。
普段、訪れない道での走行は慣れていないことも多く、事故のリスクが高まります。
引っ越し
●多くの荷物を詰め込むことができる大型バンの社用車のため、引越しに利用した。
上記の項目以外に、どのようなシーンで活用できるかを上げ、私用の範囲を決め、注意事項やルールを規定に盛り込みましょう。
個人使用における経理・税務上の注意点
ガソリン代や維持費の按分方法
企業が社用車の費用を経費で計上できるのは、「事業に必要であること」が前提です。そのため、社用車を個人使用する場合、使用した分を適切に按分しなくてはなりません。
使用時の年月日、使用前後のメーター、移動距離、使用時間を記録するようルールを作り、毎月集計を行って個人使用分を確実に区別しましょう。
個人使用分は給与として課税対象になる
法人企業が社用車を保有またはリース契約している場合、業務で使用した分に関しては、車両費やリース代金、自動車保険料、燃料費、整備費、駐車場代、そのほか維持費が経費として認められます。
先述した通り、社用車は業務上の利用が前提となるため、業務とは関係ない場面で使用した分は課税対象となります。区別を曖昧にして企業側が全てを経費として処理してしまうと、税務調査の際に否認される可能性があるため、業務使用であることを証明できる記録簿や書類を必ず残しましょう。
通勤手当として非課税になるケース
通勤手当は従業員の自宅から職場までの交通費を補助する手当てのことで、一定の限度額までは非課税となります。非課税の限度額は、電車やバスなどの公共交通機関を利用するケースと、マイカーや自転車で通勤するケースでそれぞれ決められています。
社用車を通勤に使用している場合は、その支給方法や使用条件によって課税か非課税かが異なります。
「実費精算」かつ「通勤にかかる実費分のみ」を支給しており、無制限の私的使用がない場合は、通勤手当として非課税となる可能性が高いです。
一方、社用車の維持費・ガソリン代などを会社が全面的に負担し、自由な私的利用(休日や帰宅など)が可能な状態だと 税務上「給与・便益」と見なされ、課税対象になる可能性があります。
参考
◆公共交通機関を利用するケース・・15万円/1ヵ月が非課税
◆マイカーや自転車で通勤するケース・・通勤距離が2km未満は全額課税、最大55km以上は38,700円
国税庁「電車・バス通勤者の通勤手当」
国税庁「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」
車両管理の徹底がリスクマネジメントになる
複数の社用車を抱える企業では、車両管理の徹底がリスクマネジメントや生産性向上、コスト削減につながります。
近年では、インターネットやGPSなどを活用して社用車の走行ルートや運転データを自動的に記録できるシステムが多くリリースされています。私的利用に関しては、走行記録に目を通すことで、会社が意図しない使い方をしていないか確認することができます。
それ以外にも、データをもとに走行ルートを最適化することで走行時間の短縮や燃料費の削減を実現できます。また、車両の点検や整備など車両に関するあらゆるデータをクラウド上で管理することで、社用車の状態を誰でも同じように把握・管理することや、ドライバーの運転状態をスコア化して適切な指導を行うことも可能です。とくに、社用車を業務時間外でも利用OKとする場合は、なおさらのこと、社員の安全運転に対する意識を向上させる仕組みを構築しておくべきかもしれません。

スマートドライブが提供しているクラウド型車両管理システム「SmartDrive Fleet」には、リアルタイムの走行ルート記録、自動生成される運転日報・月報、運転診断などを含む高精度な機能が多数、搭載されています。
最近では、新型コロナウイルス感染防止策のため、自宅から訪問先へ直行直帰するケースも増えているようですが、シガーソケットに挿すだけの脱着可能なデバイスも用意していますので、営業車へそのまま取り付ければ、車両管理と運行管理を同時に行うこともできます。直行直帰の場合、会社が想定していないかたちでトラブルに巻き込まれる可能性も考えられるため、リスクを最小化するために、明確なルールを設けて運用しましょう。