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高齢者に安全運転技能検査を検討?求められる安全運転とは

警視庁の有識者会議が昨年12月発表した中間報告において、一部の高齢ドライバーを対象に合格するまで免許の更新を認めない制度を盛り込んだ、「安全運転技能検査」の実施を検討していることがわかりました。今回は、免許更新のハードルを上げる動きから、検討されている安全運転技能検査の概要・目的を解説し、施行に際し自動車関連企業ができることを考察します。

高齢者に安全運転技能検査を検討?求められる安全運転とは

テレマティクスサービスを活用した事故削減への取り組み

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テレマティクスを活用して危険運転50%削減に成功した事例を元に、事故削減への取り組み方法を 「導入」・「運用」・「組織の制度設計」などフェーズに沿ってご紹介します。

事故の続発によって注目されている高齢者の危険運転

この項では、近年続発が懸念されている高齢ドライバーの危険運転を起因とした、痛ましい死亡事故をいくつかご紹介。そのうえで、なぜ現行の制度では危険運転が一向に減らないのか、問題点を指摘します。

東京都池袋・暴走プリウスによる母娘死亡事故

2019年4月、東京池袋で暴走したプリウスが歩行者などを次々にはね、自転車に乗っていた松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が亡くなり、その他9人に重軽傷を負わせるという、もはや事件ともいえるべき大規模な交通事故が発生しました。

調査の結果、車には不具合が認められず、またドライブレコーダーなどの分析から、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」が事故原因とみられており、運転していた飯塚幸三被告(88)は先日2月6日、過失運転致死傷の罪で在宅起訴されました。事故後の報道で流れた、杖をつきよたよたと歩く姿や、発生から約10ヶ月を要した起訴の遅れ、高齢から執行猶予が付くのではないかという予測が広がると、飯塚被告はもちろん往査関係者に対する非難が紛糾。「年齢に関わらず免許は与えられるのに、高齢というだけで刑が軽くなるのはおかしい!」という至ってもっともな意見が多数出ていることも、今回に技術検査導入の動きに少なからず影響を及ぼしていると考えられるでしょう。

群馬県太田・ショッピングモール駐車場男性死亡事故

2019年12月25日正午すぎ、群馬県太田市城西町のショッピングモール駐車場で、同市在住の無職・岡田隆司容疑者(86)の運転する乗用車が暴走、駐車場内を歩行していた尾内卓郎さん(71)がはねられる事故が発生しました。過失運転致死で逮捕された岡田容疑者は、「回転数が上がってしまった」と証言しているほか、ブレーキ痕などの現場状況や目撃者の証言から、意図せぬ急発進に慌てた容疑者がアクセルを強く踏み込んだことが事故原因とみられています。この痛ましい事故が報じられるとネットでは、

「回転数が上がったらアクセルを話せばいいだけ、そんなこともわからない人に運転させちゃダメ!」

「86歳…、やはり強制的に免許を返納させるべきなのでは?」

「これからの高齢化社会でどれだけこんな事故が起こるか、考えただけで恐ろしくなる…。」

など高齢ドライバーと免許の在り方や、自動ブレーキを始めとする安全装備の必要性についての議論が一層活発になりました。

なぜ今の制度では高齢ドライバーの危険運転を防げないのか

現在、70~74歳のドライバーは運転免許更新に先立ち、座学・運転適性検査・実車講習で構成された約2時間の「高齢者講習①」の受講が必須であり、75歳以上の方は記憶力や判断力を測定する「認知機能検査②」を併せて受けなければなりません。

このうち、①に関しては受講が必須ではあるものの、適性検査・実車講習ともに合否を判定する試験ではなく、あくまで自らの適性や運転技術に対する認識を深め、安全運転に活かすことを目的としています。一方、②を受けた結果「心配ない」「少し落ちている(※)」と判定された方は①に移りますが、「落ちている」と判定されると臨時適性検査または診断書提出命令がなされ、診断結果で「認知症」と判断された場合は免許停止または取り消し対象となります。

※3時間に延長された別講習を受講

また、2017年からは更新時だけではなく、75歳以上のドライバーが一定の違反をした場合も、「臨時認知機能検査④」を受けなければならないため、高齢者の危険運転による事故防止力を期待できそうですが、問題は「検査内容」と「事故発生原因」にあります。③・④ではいずれも、

  • 時間の見当識・・・検査の実施月月日、曜日及び時間を回答。
  • 手がかり再生・・・イラストを記憶し関係ない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなし、及びヒントをもとに回答。
  • 時計描写・・・時計の文字盤、及び指定された時刻を表す針を文字盤に描写。

という3つの検査を実施、採点結果に応じて認知機能が判定されるのですが、最低限の記憶力・判断力を測定するに留まり、安全運転に必要な操作技術があることは一切わかりません。

警察庁が2019年上半期(1~6月)の交通死亡事故原因を分析したところ、75歳以上のドライバーによる事故の34%は、ハンドルやブレーキの「操作ミス」が原因だったことが判明し、この割合は75歳未満の3倍におよぶと言います。前述した悲惨な死亡事故もすべて高齢者の操作ミスが主な原因であることからもわかる通り、③・④をクリアしたからといって、若い世代と同様の技術があるとは限りません。

つまり、従来の制度だけでは最大の原因を減らすことが困難だと判断した警視庁並びに関係機関は、実車を用いて対象者の運転技術を厳しくチェックする仕組みを進めているのです。

高齢者の事故防止策として進められている安全運転技能検査とは

現在のところ、安全運転技能検査の対象は、年齢的に「75歳以上または80歳以上」が想定されているほか、過去3年間に特定の違反歴や事故歴があり事故リスクが高いと判断されたドライバーに限定した方向で検討が進んでいます。また、75歳以上が必ず受ける認知機能検査の前に実施し、技能検査をパスしたドライバーは高齢者講習の実車指導が免除されるほか、仮に不合格であっても免許更新期限内であれば、何度でもチャレンジできる救済措置が盛り込まれる予定です。

検査項目及び採点基準については、現在議論が交わされている最中ですが、検査中に信号無視や大幅な速度超過など、重大事故の原因となる違反を1回でもした場合は、一発で不合格になる可能性が高いと考えられます。その一方で、技術検査の実施が強制的な免許返納にならないよう、安全運転支援機能を備える自動車だけを運転できる、高齢者向けの「限定免許」をつくる方針も打ち出しており、

  1. 技能検査の実施
  2. 危険運転の兆候がないか判断
  3. 兆候なし・・・認知検査をパス&高齢者講習→免許更新
  4. 兆候あり・・・免許返納or限定免許への書き換えを推奨

という新たな仕組みの構築を目指している模様です。

来る超高齢化社会に向け、企業は何ができるのか

2018年末時点における、70歳以上の免許保有者は約1,130万人で2008年末の1.7倍に達するなど、ドライバーの高齢化が急速に進行している今、関連企業や公共機関も手をこまねいているわけではありません。

トヨタを始めとする国内自動車メーカーは、高齢者をターゲットとした安全機能を多数搭載した新型モデルの開発に余念がありませんし、国交省の要請を受け中古車に後付け可能な安全運転支援装置を続々とリリースしています。

また、国は衝突被害軽減ブレーキ及び、ペダル踏み間違い・急発進等抑制装置が搭載した車の購入費を補助する「サポカー補助金」を、満65歳以上の高齢ドライバーを対象として2020年度補正予算案に盛り込み、昨年12月閣議決定しました。さらに、一部の自治体では現在乗っている自動車に後付けできる、安全運転支援装置の購入及び設置費用を補助する制度(※)を開始しているほか、免許返納後もスムーズに移動できる社会を構築するため、官・民・学が一丸となってMaaS推進に力を入れています。

※自治体によって実施の有無・条件が異なるため要確認

しかし、高齢化が顕著であるはずの日本では続発する悲惨な事故に囚われ過ぎ、高齢ドライバーに対する見方が非常に冷ややかなのも事実。単純に「高齢者は免許を返すべきだ」と声高に叫んでいるにすぎず、具体的な取り組みが進んでいるとは言えません。そんな中、世界有数の自動車大国・ドイツでは、「全ドイツ自動車クラブ(ADAC)」が中心となり、高齢ドライバーを社会全体が温かい目で尊重し、安全運転を支援する取り組みを積極的に進めています。

日本のJAFに相当するADACでは、本業であるロードサービス事業をこなしつつ、高齢者用安全運転パンフレットの作成、高齢者ドライバーに適した車の比較テスト、適性テスト&運転指導、相談窓口の開設など、「生涯安全運転」の実現に向け、社会全体へ高齢ドライバーをサポートする必要性を訴えています。ADAC交通部署副所長ウルリヒ・クラウス・ベッカー氏は、「高齢=事故を起こしやすい」という考えはマスコミによる一方的な報道による偏見と言及。その根拠として以下、ドイツ国内におけるいくつかの統計結果を挙げており、実は日本にも似たような傾向があるのです。

  1. 被害が甚大な事故発生率は全年齢層が「7%」であるのに対し、高齢者ドライバーは「14.5%」と低い。
  2. 高齢者ドライバーの飲酒運転率は「5%以下」であり、他の年齢層と比較すると最低水準。
  3. 死亡事故発生件数を年齢層別にみると、最も多いのが18~24歳で「481件」、最も低いのが65~69歳で「87件」、次に低いのが60~64歳で90件、75歳以上のドライバーは2番目に多く「237件」。
  4. 交通事故件数を年齢層別にランク付けすると、ワーストが「18~20歳」で2番目が「75歳以上」、「21~30歳」・「64~74歳」と続き、31~64歳が最も少ない。

事実、警察庁の調べによると今年上半期(1~6月)に発生した、75歳以上の高齢運転者による死亡事故は172件で昨年同期より50件(22.5%)、うち80歳以上による死亡事故は98件で27件(21.6%)といずれも減少。高齢ドライバーによる重大事故が注目された結果、高齢ドライバーの安全意識が高まっているほか、なるべく運転を控える傾向も強まり2019年4月の池袋暴走死亡事故以降、都市部を中心に免許の自主返納件数も急増しています。

つまり、予定通り安全運転技術検査が実施され、不合格者の免許返納及び限定免許への切り替えがスムーズに進めば、高齢ドライバーによる悲しい死亡事故のさらなる減少を期待できるのです。しかし、死亡事故を「撲滅」するためには、免許更新体制の強化や安全技術の進化に頼り切るのではなく、年齢とともに反応速度や判断力が鈍り、運転技術が低下する高齢ドライバーをサポートする、ドイツのような車社会の構築が不可欠です。

今後は、報道やネット情報に影響されるのではなく、離れた場所でいつでも車両位置・運行状況がわかり運転診断機能などを有する、ITデバイスを活用した見守りサービスを導入するなど、高齢者の安全運転をサポートする個人的な対策も検討すべきではないでしょうか。

まとめ

交通事故は年齢層を問わず発生するものです。必ずしも高齢ドライバーの事故件数が突出して多いわけではなく、ここ10年ではむしろ減少傾向にあります。「若いから大丈夫」「運転に自信があるから」という考えは一旦置いて、高齢者マークを見かけたら幅寄せやあおり運転で不要なプレーシャーを与えないよう注意したり、優先して道を譲ってあげたりするなど、譲りあいを考慮した運転を心がけましょう。

筆者紹介

株式会社スマートドライブ
編集部

株式会社スマートドライブ編集部です。安全運転・車両管理・法令遵守についてわかりやすく解説します。株式会社スマートドライブは、2013年の創業以来、「移動の進化を後押しする」をコーポレートビジョンに掲げ、移動にまつわるモビリティサービスを提供しています。SmartDrive Fleetは、1,700社以上への導入実績があり、車両に関わる業務の改善や安全運転の推進などに役立てられています。また、東京証券取引所グロース市場に上場しています。 SmartDrive Fleetは情報セキュリティマネジメントシステム適合性評価制度「ISMS認証(ISO/IEC 27001:2013)」を取得しています。

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