物流センターの役割とこれからのイノベーション
物流は生産したモノを生産者から消費者の手元に届ける、私たちの生活や経済の成長にとってなくてはならないものです。その物流を支えているのが倉庫や物流センターといった施設。物流の拠点となる物流センターは、一体どのような役割を担っているのでしょうか?
令和6年度版 トラック事業者向け通信型デジタルタコグラフ導入メリットと補助金活用ガイドブック
物流センターとその役割
以前のエントリーで倉庫についてお話ししましたが、倉庫と物流センターにはどのような違いがあるのでしょうか。
最近では作業の効率化やコスト削減などが見直され、より戦略的な物流への関心が高まっています。荷捌きや荷物の積み下ろしなど、貨物を一時保管し仮置きするための場所を倉庫と定義されていたところ、保管だけでなく作業を行うヒトや荷物の移動をする車、搬送機などが出入りするようになり、ロジスティクス(物流の一元管理・最適化)の高度化を担う場所として「物流センター」と呼ばれるようになりました。
物流センターは主に、
・商品保管による生産と消費の時間差を調整する
・迅速な出荷と納品を行う
・流通加工
・入荷もとから出荷先へのモノの組み替えを行う
・輸配送の効率化
・物流まつわる全ての情報センター
としての機能を持ち合わせています。
つまり、戦略的な物流の中核にある司令塔として、高度な情報システムを備え、流通加工などの業務を迅速かつ正確に無駄なく行い、物流全体のプロセスを最適化する場所。それが物流センターだと言えるでしょう。
市場への商品供給を円滑に行うことを目的として、「適切な商品を適切な場所に、適切な時間で適切な条件で適切なコストで供給」することが戦略的な物流であるとすると、物流センターの役割は「リードタイムの短縮、品質の向上、商品管理の向上、トータルコストの削減など多岐に渡ります。
物流センターの種類と特徴
物流センターにはいくつか種類があります。それぞれの特徴と役割を見ていきましょう。
TC(トランスファーセンター)
在庫の保管を行わず主に仕分けや荷物の積み替え、配送を行う「通過型」物流センターのことを指します。
運ばれてきた荷物は保管されず、開梱し直接仕分けされ、加工の上納品先へと配送されますので、小ロットで仕入れができて在庫リスクは少なくなりますが、購入時のコストはDCに比べて高くなる場合もあります。また、発注から納品までのリードタイムがDCと比較すると長くなる可能性も。
DC (ディストリビューションセンター)
在庫を保有することを前提とした「在庫型」物流センターをDCといい、センター内で在庫として保管している商品を、店別・方面別に仕分けして店舗などに納品する機能を持っています。
DCは商品を仕入先から一括で購入するのでコストメリットが出やすくなり、倉庫に在庫を持っているため必要な際に迅速に手配することができ、納品も早くできるのが特徴ですが、一方で在庫リスクを負わなくてはなりません。
TCと比較すると入荷、格納、ピッキング、検品、梱包、出荷と作業が多く、それに伴うラックや棚、伝票発行時に必要な端末や空調設備など、必要となる設備が多くなります。
PDC(プロセスディストリビューションセンター)
鮮魚や精肉の加工、部品の組み立てや設置といった高度な加工が行える設備が整い、準工場化された機能を持ち合わせている在庫型物流センターをPDCといいます。商品の加工を行うことで付加価値つけることができますが、品質を保つために防塵や温度管理、生産ラインといった設備や労働力が必要。
主にスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどに納品を行う物流センターで、生鮮食品の扱いが多く、高度な商品管理が求められます。
配送センター
エリア内の配送、トラック輸送を担う拠点のこと。
デポ
配送のための小型拠点をこう呼んでおり、卸売業やデパートの宅配を指すことが多いようです。
最新物流倉庫は、環境・防災設備が整っている!
国内には三菱倉庫や住友倉庫、三井倉庫に安田倉庫などを始め、多くの物流倉庫企業が各地域に様々な施設を構えています。特に地震や台風など自然災害の多い国内の物流施設では、環境や防災に考慮した最新の設備が取り入れられているようです。
2018年6月8日、埼玉県和光市の物流施設「SGリアルティ和光」が日本政策投資銀行(DBJ)の「DBJグリーンビルディング認証」の取得を発表しました。DBJグリーンビルディング認証とは、DBJが施設の環境性能、防災・防犯、省エネ、快適性など、社会的要請に配慮した不動産の普及・促進を目的に開発したスコアリングモデルで、優れた不動産を評価するもの。2018年3月に竣工したばかりのSGリアルティ和光は、最高ランク「5つ星」を取得。
敷地面積約27,000㎡の大型物流施設は、その広大さから高効率なワンフロアでのオペレーションを可能にしただけでなく、屋根面に最新の自家消費型太陽光発電システムを導入することで環境負荷の低減および自然エネルギーの普及にも貢献。業界初となる最大出力50kWの防災用蓄電設備を設置し、停電時に電力を供給できるようになっています。緊急地震速報システムでいち早く地震の発生を知らせるなど、緊急時の対策に力を入れている最新物流施設です。
倉庫大手の三菱倉庫も2018年3月26日、自然災害対応と環境負荷に配慮した「災害に強いエコ倉庫」として兵庫県神戸市須磨区に配送センターを竣工しました。太陽光発電設備(300kW)やLED照明を設置することで環境負荷の低減に努めるとともに、免震構造の採用、非常用発電機の設置で大規模災害への対応力を高めています。配送センターを中核とした事業計画は、物流の効率化と環境負荷低減に資するものとして、3月12日付けで物流総合効率化法に定める「総合効率化計画」の認定を受けました。
住友商事は2016年11月より、不動産事業の”第4の柱”として最新鋭の大型物流施設「SOSiLA」のシリーズを続々と竣工しています。人と物流を繋ぐ物流施設をコンセプトに、流通加工業務と短時間納品への対応、施設持続性と可変性の追求、働く環境の向上といった新たな価値の提供を行っています。現在は関東を中心に4拠点が稼働中。3月に竣工したばかりの「SOSiLA横浜港北」は、庫内作業に適した平均照度300ルクス(LED照明)を確保したほか、共用部に無料Wifiを装備したラウンジやシャワールームを設置し、働く環境の充実を目指した設備が完備されています。
また、環境へ配慮した取り組みとして、最上階の温熱環境改善を目的に屋上緑化や太陽光発電パネルを敷設し高い遮熱効果を実現しました。都心のカフェのような屋外のテラスは、はたから見ると倉庫だとは思えないほどスタイリッシュで、オフィスビルさながら。
物流センターには最先端の技術が集結している?
物流センターはもはやただの「物流拠点」ではなく、その機能や性能が大きく変化し、最先端の建物になりつつあります。
グローバル・ロジティック・プロパティーズ(GLP)は、都市生活の経済活動を支える重要なインフラとして、高機能かつ環境にも配慮した大型の物流施設を数々と展開しています。2013年に竣工したマルチテナント型の大型物流施設GLP三郷IIIは、環境への配慮と事業の継続性・効率性を実現した最先端の物流施設であることを評価され、2014年に「ULI-Global Award for Excellence」を受賞しました。
都心より20㎞圏内に位置する地上5階建敷地面積38,901.00㎡を有するこの施設は、免震構造、受変電設備の冠水対策にて地震や洪水からの被害を大幅に軽減し、停電時にはバックアップ電源設備により一部の事務所やセキュリティ、トイレを作動、災害時における事業継続性の確保に最大限配慮した物流センターです。全館にはLED照明と共用部の人感センサーを設置、高断熱屋根・壁材、太陽光発電の採用による省エネ・冷暖房効率を実現し、雨水と節水型衛生機器の利用やヒートアイランド対策、公共交通機関、自転車通勤の利用促進も実施。これらの取り組みによって日本国内の物流施設では初めてで唯一となるLEEDゴールドの予備認証を取得しました。
2015年より竣工したGLP座間も、旧日産座間工場の跡地に建った延床面積が13万㎡という巨大な最新物流施設。周辺には人口が集積しており労働力確保が容易な立地であることに加え、防災時も事業継続を確保するために外壁には断熱性の高いサンドイッチパネルを使用するなど、BCP対策にも力を入れています。高い断熱性を持つサンドイッチパネルを利用することで倉庫内の温度が外部より高くなることを防ぎ、作業向けの空調設備は不要であるにもかかわらず、働きやすい環境を実現しているとのこと。免震対策や防災センター設置による安全性とともに、入居企業の共有部にはカフェテリアやラウンジなどのソフト面も充実しています。
※BCPとはBusiness Continuity Planの略で、災害や事故など不測の事態を想定し、事業継続の視点から対応策をまとめたものです。 自然災害などが発生しても、センター内業務への影響を最小限に抑え、速やかに復旧・再開できるようにあらかじめ策定しておく行動計画がBCP対策です。
さらに同社は2022年をめどに神奈川県相模原市に日本最大の物流倉庫を開設する予定です。東京ドーム約6個分の大きさに相当する、約29万5000㎡という広大な敷地に1,300億円を投じて6棟の巨大な物流施設を建設、延べ床面積は65万㎡となり、日本最大規模の物流施設となります。
また、オーストラリアに本社を持つ世界トップクラスの物流会社、グッドマンジャパンは千葉ニュータウンでマルチテナント型物流施設を含む、総合的なビジネスパークの開発を進めています。入居予定テナントの要望に合わせた物流施設のゾーン、High Tech Zoneと呼ばれるデータセンターや軽工場、研究開発が集まるゾーン、さらには近隣住民や従業員が利用できる広場や保育園、宿泊施設やカフェ、レストランなどの商業施設を備えたゾーンなど複数の施設を設け、敷地内に循環バスを走らせると言います。
もはや物流センターという枠組みを飛び越え、生活に身近な施設としてその存在感を大きくしているようです。
物流センターにおける課題
ネット通販の台頭により、活況にある物流業界。日々多くの荷物が納品先へと配送されていますが、交通渋滞は荷物を輸送中の道路に起きることだけではないようです。
配送料は無料・当日または翌日配送が一般的になり、現在は物流コストの削減が必要とされています。物流センターではコストが最も多くかかるピッキング作業の効率化が改善につながるのではと考えられていますが、出荷頻度に応じた商品ロケーションの設定上、一カ所に作業員が集中しやすくなってしまい、物流センター内でも渋滞が発生し効率が鈍化することも。商品を取り出すために先着の作業員がいれば、手待ちの作業員が列をなしてしまう…。これは作業エリアが狭く、同じ通路に高頻度商品が固まりすぎてしまうことが原因になっています。
WMSなどの端末を通しリアルタイムの在庫情報などは情報システム上で反映されますが、作業実績は100%わかる訳ではないため、人がピッキング作業の際に移動のため歩く・待つなどの時間までは見える化が難しくなります。さらに物流センターの庫内には、在庫が増え続けモノが溢れてしまう、特定のエレベーター前で渋滞が発生するなど、その他多くの問題が発生しているのです。
このような問題に対し、物流改善の第一歩になるのは物流センター内の「見える化」だと言われています。「見える化」によって作業状況の見直しや作業中のミスの減少、作業の効率化によるコスト削減が実現すれば、経営から管理、現場、各所において、より戦略的な物流が実現できると考えられます。現在の作業工程を分析して作業手順の見直しやシステムの化の導入を行ったり、作業員の人時生産性を平準化して作業全体の生産性を上げることで作業内におけるムダや人手不足を大幅に改善することが望まれているのです。
車両管理・アルコールチェックの課題解決をSmartDrive Fleetがサポートいたします。以下から気軽にご相談ください。
リアルタイムで物流を「見える化」する
日本GLPのグループ会社の出資により、労働力不足や配送の効率化といった物流業界が抱える課題を解決するための新しいエコシステムを推進する会社として2017年11月に設立された株式会社モノフル。日本GLPはこれまで先進的物流施設を企業に提供して効率的かつ安全な物流オペレーションのサポートをしてきましたが、モノフルは様々な業種の企業と協業することで新たなロジスティクス・エコシステムの構築を目的としています。2018年3月には、テレマティクス向けサービスプラットフォームを提供する株式会社スマートドライブとあいおいニッセイ同和損害保険株式会社と業務提携をしました。
グループ会社の日本GLPが物流施設のデベロッパーとして蓄積した物流業界のノウハウや顧客ネットワークを活用しつつ、スマートドライブが蓄積と分析をしてきた動態管理データを活かし、現在の物流業界が抱える数々の問題を解決するサービスを開発・展開して行く予定です。
まず第一弾にドライバーの待ち時間の実態把握と解消を目的とした物流向け新サービスとして、7月より「SmartDrive Fleet」(スマートドライブフリート)の提供が開始されます。SmartDrive Fleetはリアルタイム動態管理や運転診断機能に加え、ドライバーの荷待ち時間や休憩時間といった情報を自動で集計する「乗務記録機能」を備えたサービス。つまり、トラックやヒト、モノの動きが個別に「見える化」され、日々の記録・データとして蓄積します。
そこで蓄積されたデータを分析することで物流センター内外の作業内容をシミュレーションがしやすくなります。つまり、作業のボトルネックや無駄素早く発見するだけでなく、過剰・不足しているスペースや過密している箇所など原因が明確にわかり、具体的な施策や効率的な物流が可能になるのです。
今後はさらに物流センター内の情報や状況の可視化が進み、オペレーション情報をよりリアルタイムで取得しながら最適化していくことがロジスティクス戦略にとって必要とされていくでしょう。
輸送ロット、納入頻度、輸配送コスト、在庫維持コストなど、費用を最小限に押さえるにはどのような改善を行うべきか。物流センターのイノベーションは、ひいては物流業界全体のイノベーションにもつながる大きな領域です。倉庫内のロボット化もひとつですが、それ以外にもまだまだやれることはたくさんありそうです。その皮切りとなるのが、今回のテーマのようなオペレーション課題の可視化・データ化なのではないでしょうか。