テクノロジーが後押しする物流業界の新たなビジネスモデル
昨今では、IT・通信業界だけにとどまらず、様々な業界においてAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータの活用など、テクノロジーを用いた新しいビジネスモデルや業務の効率化による変革が進められています。倉庫や物流…あまり馴染みのない方にはIT化という言葉と結びつかないかもしれません。しかし、前回お伝えした物流センターの記事のように、物流業界は今、単なるモノの流通だけではなく、より戦略的な物流が求められているのです。
そんな中、国内でも新たな施策やビジネスモデルが誕生しつつあります。今回はIT化による新たな潮流や施策、その効果についてお伝えしていきましょう。
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API公開による情報のオープン化
インターネットの発達により、他社とも協働することが珍しくなくなってきました。その一つとして挙げられるのが、情報のオープン化・APIの公開です。
APIとは、アプリケーションプログラミングインターフェースの略で、ソフトウェアからOS(基本ソフト)の機能を利用するための仕様、またはインターフェースの仕様を指すもの。FacebookやGoogleなど名だたる企業もAPIを活用して他社との協業を通したビジネスの拡大を行なっています。
APIはあくまで機能を提供するものであるため、自社の独自技術の部分はブラックボックスにしたまま開放できます。これによって企業間での提携が早まったり、新たなビジネスのきっかけにもなりますし、このAPIを利用した企業から新たな独自の顧客層にアプローチすることもできるというメリットがあります。
株式会社オープンロジは、EC運営企業と倉庫会社をつなぐ物流プラットフォーム「オープンロジ」を展開し、誰でもシンプルに機能化された仕組みを使えるようにすることで、物流業務にかかる時間やコスト、負担を大きく削減して、売り上げにつながる業務へ専念できる流れをつくっている企業です。現在の物流サービスのような複雑な手続きを一切とらず、わかりやすい業界最安値水準の料金体系と簡略な手続きによって、オンライン上で物流企業が提供する品質の高い物流業務を利用することができるのがオープンロジのサービスです。
同社はECバックヤード効率化システムを提供するHamee(ハミイ)株式会社のサービス「ネクストエンジン」とAPIで受注データを自動連携する「オープンロジ連携アプリ」をリリースしています。ネット通販を運営する事業者にとって、売り上げや販促よりも出荷作業は煩雑で負担の大きいものです。そのためアウトソーシングを依頼する企業も多くはありますが、システム構築や費用面などを考慮すると気軽に対応できるものとは言えません。
そこで、このアプリを通すことで、ネクストエンジンで取り込まれた受注データを発送データに切り替え、オープンロジ提携先の倉庫会社にデータ提携し、出荷作業にかかるCSVのアップロードなどの細かい作業やミスを削減することを狙いとしています。このような情報の一部オープン化は、物流においてはさらなる利便性と効率化を叶える鍵になるかもしれませんね。
物流のアウトソーシングはもっと簡単に、スムーズになる
国内での物流アウトソーシングは1990年代のバブル崩壊を発端に荷主企業のコストダウンを捉えて発展していき、2000年以降には3PL(サードパーティロジティクス)の認知拡大により採用する企業も増えてきました。製造業や卸売業にとっては、倉庫内作業や配送業務はコア業務ではありません。より売り上げを伸ばして業務効率化を追求するためには、ノウハウを持った専門性の高い業者へ業務を委託して、全体的なコスト削減や業務の品質向上を行い、利益を向上させ本業に集中することも考えられるでしょう。物流業界では、自社で物流部門を持たない「ロジレス」と言う手法が経営効率を高める手段としても広まっています。
しかし、導入による費用面や、どの物流倉庫に依頼すればいいかなど、先ほどもお伝えしたように物流のアウトソーシングは安易なものとは言えなかったりもします。そこで、ITの進化で物流の代行システムをより簡単行えるようにしたのが「ロジレス」です。株式会社ロジレスが提供する同サービスは、商品を倉庫に送り受注登録をするだけで、出荷業務や日々のメール送信、梱包などの作業を専用システムが対応してくれるというもの。
管理システムを通して受注状況と在庫を一元管理し、作業を自動化(効率化)や低コスト化が実現できます。今まで注文管理と在庫管理が別々になっていることが多く業者間での連携がうまく取れずにミスが起きてしまっていた、というような問題を一括管理で解決した同サービスは、大規模なシステム改修などは必要なく、複数のネットショップの管理も可能にしています。
このように、高度なIT化によって、物流のアウトソーシングはより簡単に、円滑に行えるようになってきているのです。
IT技術による積載効率化
入出荷時に積載効率が悪いと無駄にトラックの台数や配送回数を増やすことになってしまいます。そこで、積載シミュレーションプログラムなどを使って積載効率の高い積み荷パターンを検討し、工夫して積載率を高めることが大切です。
荷物を目的地まで届けた後にそのまま帰社するのではなく、効率良く配送を行うには帰り便の有効利用が検討できます。配車を有効に行えるよう輸配送管理システム(TMS)などを使って無駄のない輸送計画を組み、それぞれの積載率や実車率を把握することでコスト削減やCO2削減を実現できます。
配送業務はベテランの作業員が属人的に積み上げてきた勘やノウハウに頼る部分が多かったところを、シミュレーション技術の進化やスマホやタブレットなどの端末の普及によってシステム化が進みつつあります。属人化からの脱却は、新人が長年のベテランと変わらず一定の業務が行えるようにしてくれます。
また最近では、荷物を運んで欲しい企業は荷物の量や種類、輸送希望日時などの条件を登録し、物流会社側は提供できる輸送手段や運べる荷物の種類・量、運べる日時などの条件を登録しておくことで、両者のニーズをマッチングさせるような機能を持った求荷求車サイトサービスも増えています。
最強のマーケティングツールは物流にあり
注文する前に、独自の高度なアルゴリズムによってデータを分析し、顧客の行動予測にもとづいて商品を先に出荷、注文が入った時点で既に最寄りの拠点まで商品の配送が完了している —— ITの進化によって作られたAmazonの特許システム「予測出荷」というものです。
過去の注文履歴や閲覧ページ、購入ボタンの上のマウスカーソルの滞在時間といった日々のビッグデータを元に顧客の趣味や嗜好を探り、それに合う商品を提案する技術を通じて、高精度での予測を実現しました。ここにはAmazon特有と言えるレコメンド機能が最大限に活用されています。そして、「注文しないと受け取ることができない」と言う常識を、この高度なサービスと技術によってAmazonは塗り替えようとしています。これも同社が掲げる顧客至上主義を反映し形にしたサービスのひとつだなのでしょう。
物流業界のIT化は、投資をすることで物流のディレクション業務の軽減と顧客への完成度の高いサービスとマーケティングを提供することができ、さらには顧客対応の品質も向上させることができます。物流は次世代マーケティングの要になり得ると言っても過言ではないかもしれませんね。