公共交通ドライバー高齢化危機!自動運転が急務のバス・タクシー
最近は高齢者の運転による事故多発が大きな社会問題として取り上げられていますが、自動車を使った公共交通、つまりバスやタクシーはまさにこの高齢者が支えていると言っても過言では無いのかもしれません。
高齢者から運転資格を奪えば成り立たなくなる公共交通、それこそが現在もっとも自動運転の導入が望ましい業界かもしれません。
3分でわかるSmartDrive Fleet
SmartDrive Fleet は、アルコールチェック記録をはじめ「安全運転管理・法令遵守・DX」3つの観点から業務で車両を利用する企業の様々な課題をワンストップで解決できるクラウド型車両管理サービスです。簡潔にサービス概要をご紹介しています。
目次
数字で見る、交通事故における高齢者の割合増加
警視庁交通総務課が発表している統計に、このような情報があります。
“都内における交通事故の総件数は年々減少し続け、平成26年は37,184件で10年前の半数以下となりました。
その一方で高齢運転者が関与する交通事故の割合は、年々高くなり、平成26年は総件数の20.4パーセントを占め、10年前の約1.9倍となっています。”
(警視庁「防ごう!高齢者の交通事故!」http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotsu/jikoboshi/koreisha/koreijiko.html)
これによれば、平成17年(2004年)に東京都内で発生した交通事故件数80,633件に対し、平成26年(2014年)のそれは37,184件と、約54%もの大きな減少。
その一方で、65歳以上で原付以上の車を運転している高齢者の割合は平成17年がわずか10.9%だったのに対し、平成26年には20.4%へと上昇しています。
件数に直せば約8,800件から約7,600件へと約14%減少はしているものの、65歳未満の約59%と比較すれば、減少率が緩やかです。
高齢者の事故が目立つのは若者が減ったから?
この数字からは、単に「少子高齢化」や「若者の車離れ」により高齢者以外の運転機会自体が減り、事故を起こす以前に車を運転しないからではないか?という可能性もあります。
日本自動車工業会のレポート「乗用車市場の変化と保有に関する意識」(http://www.jama.or.jp/lib/jamareport/100/03.html)によれば、主運転者における60歳以上のドライバーの割合は、平成5年(1993年)の9%から平成17年(2005年)には23%に上昇。
しかし、その後は安定したようで、同会の「2015年度乗用車市場動向調査」(http://release.jama.or.jp/sys/news/detail.pl?item_id=1798)では高齢者の主運転者は1/4へと、わずかな上昇に留まっています。
つまり、「クルマ離れ」と言われつつも、実際に運転するドライバーの割合は、ここ10年ほど横ばいなのです。
そう考えると、単純に高齢者ドライバーが増えて、それ以外のドライバーが減ったので高齢者ドライバーの事故が目立つ、という事では無いと言えます。
単純に言えば、各種の交通事故対策が高齢者ドライバーに対しては効果が限定されている、という事でしょう。
なぜ減らないのか?高齢者の事故率
それでは、なぜ各種の交通事故対策は高齢者ドライバーの事故を減らさないのでしょう?
いくつかのケースを考えてみました。
古い車が多い
1990年代以前、自動車とはそれほど長く乗る乗り物ではありませんでした。
国産車はエンジンもボディもそれほど耐久性を持ちませんでしたし、初回登録から10年を経た車は継続車検が2年おきではなく1年おきだったので、長く乗るより買い換えた方が安く上がったのです。
(参考:http://www.biz-newspaper.com/cat47/82.html)
しかし、以下要因により、古い車でも長く乗られる事が多くなりました。
- 1990年代はじめのバブル崩壊以降続く、経済の停滞
- 1995年の道路運送車両法改正による「10年目以降継続車検は1年おき」の撤廃
- 国産車の品質向上による耐久性の向上
そのため、特に希少価値があるなどの理由が無くとも、1990年代以降の車であれば10年以上経った現在でも街でよく見かけるようになりました。
その全てが高齢者ドライバーでは無いにせよ、「1台の車を長く乗る」事が可能になり、エコカー減税による買い替え増加が起きても、古い車を見かける事は昔より確実に増えたように思えます。
最新装備を使いこなせない
現在まで続くGPS式の純正カーナビが登場したのは1990年。
翌年には後付けモデルの市販が始まり、1990年代中盤以降は安価な製品や純正採用モデルが増えて、急速に普及していきました(参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/カーナビゲーション)
現在の65歳以上の高齢者が1995年頃に何歳かと言えば、若くても40歳を過ぎています。
それ以前はクルマでスイッチ類と言えばワイパーや灯火類、エアコンにオーディオくらいで、操作のためのスイッチ類がたくさんあるのは高機能なエアコンやオーディオくらい。
地図は紙で製本された地図を見て記憶しておくのが当たり前という年代です。
新しもの好きであったり、合理的な考えのできる人なら高齢者でもカーナビ以降の機器を自在に操作できるでしょうが、それ以降となると、年齢が高くなるほど新しい物を覚えるのが大変になります。
そのため、車そのものは運転できても、最新機器を使いこなせないどころか、不意に鳴る警報や表示などで、かえって集中力を乱される可能性もあるのではないでしょうか。
間違いに気づけない
人間誰にでも間違いはあるものですが、そこで間違いに気づいたり、認める事ができるかどうかがその先の分かれ目になります。
ブレーキと間違えてアクセルを踏み込んだがゆえの事故はその典型的な例でしょう。
踏み間違いに気づけばすぐにアクセルから足を離せるますが、実際には事故を起こすまで踏み続けてしまうという点から、最近は「アクセルペダルは踏まない」「停車中や微速で急にアクセルを踏んでも反応しない」という対策製品が登場しています。
つまり、「間違えて踏んで、さらに踏み続けてしまうものは仕方が無い」という観点ですね。
ここまでいくつか要因を考えてみましたが、
- そもそも安全性の低い古い車に乗っている
- 安全性の高い車に乗っていても、その機能を使いこなせない
- 高機能がかえって事故要因になるケースも考えられる
以上の事から、高齢者には高齢者なりの交通事故対策が求められている状況です。
しかし、バスやタクシードライバーの高齢化は深刻
ところが、そうした高齢者ドライバーの対策が進んでいない状況にも関わらず、確実にその割合が増えている業界があります。
それが自動車による公共交通、バスやタクシーです。
- タクシードライバーの平均年齢は60歳に迫る
(College Cafe by NIKKEI 2015年6月17日版・タクシーに迫る「危機」五輪控える日本に欠かせぬ決断 http://college.nikkei.co.jp/article/38862015.html)
- バス運転手は6人に1人(約17%)が60歳以上
(産経ニュース・経済インサイド2016年1月5日版「バス運転手が足りない! 低待遇、高齢化、訪日客急増…観光立国に黄信号」 http://www.sankei.com/premium/news/160105/prm1601050001-n1.html)
- 平成24年(2012年)における営業用バス運転手の平均年齢は48.5歳
(国土交通省自動車局 平成25年12月20日発表「バスの運転者を巡る現状について」 http://www.mlit.go.jp/common/001023160.pdf)
この原因としては、
- ”中年層は低賃金構造のもとでは家族を養うことができないためにタクシー業界で働こうとはしません。長時間労働という劣悪な環境が加わって、若年層も敬遠します。”
(上記College Cafe by NIKKEIの記事より引用)
- ”他産業よりも労働時間が長い上に年間所得は全産業平均を下回る。”
(上記産経ニュース・経済インサイドの記事より引用)
- コスト削減のため人件費抑制、他業種で高い求人が続く中で定着率が低く、定年退職者の雇用延長などが対応策(上記国土交通省自動車局の分析結果を要約)。
つまり、低賃金で労働時間も長いバスやタクシー運転手ができるのは、他に行き場の無い高齢者が多くなるという現実が見えてきます。
日本では普及が望めない配車サービス「Uber」
これに対して、海外では愛車をハイヤーとして使う個人と、乗りたい人とスマートフォンアプリなどでマッチングさせる「Uber」という配車サービスが、アメリカを中心に人気を呼んでいます。
品質の低いタクシーよりは安心して乗れるという背景もありますが、IoT時代にサービスを提供したい人と受けたい人を結びつける事が容易になった事も原因です。
(参考:http://blog.tokoproject.com/entry/2016/11/11/IoTとコネクテッドな次世代自動車。モータリゼーシ)
しかし、日本では営業用運送事業は、認可された事業者しか行えないため、Uberは東京でタクシー会社により細々と行われているに過ぎません。
訪日観光客等を対象に自家用車でのタクシー営業を可能にする「特区法改正案」も策定されていますが、東京や過疎地が対象です。
そもそも現在のタクシー事業の深刻な低賃金化は、小泉政権時代の規制緩和でタクシー業界への参入が容易になった結果、タクシー台数が増えすぎた事が原因です(前述のCollege Cafe by NIKKEIの記事より)。
その状況で個人による「Uber」での営業や、同種サービスを認める事にはタクシー業界から猛烈な反発があり、実現してしまうとタクシー業界の高齢化をより一層進める事になる懸念もあります。
バスも無縁ではなく、過疎地でのバス路線維持が一層困難になりかねません。
仮に「Uber]が日本全国で解禁になったとして、サービスを安価にいつでも受けられる地域と、限られた台数で高価なサービスとなってしまう地域間格差が、さらに過疎化を助長しかねません。
結果、公共交通機関が完全に壊滅するまで負のスパイラルが続く可能性もあるでしょう。
自動車による公共交通維持の切り札「自動運転」
人件費不足と、それによる高齢化と、安全性の低下。
タクシー・バス業界で年々深刻化している問題を根本的に解決し、公共交通機関を地域間格差無く存続させるには、もはや無償・有償のボランティアを募るか、「自動運転」しか無いのではないでしょうか。
SAE基準レベル5の完全自動運転(運転手が不要)な自動運転バスや、自動運転タクシーが実用化されれば、少なくとも運転手の人件費は無くなります。
また、”<時代の正体>運転士激務に悲鳴 臨港バス36年ぶりスト”(http://www.kanaloco.jp/article/218090)という神奈川新聞の記事で話題になったように、朝・夜の勤務の間の「中休」を含めれば拘束時間が異常に長い、というバス運転手の労働時間問題も、自動運転者の管理者だけで足りるようになります。
都市部の深夜帯や過疎地に多い高齢者ドライバーのタクシーも、ロボットタクシーが導入高齢者ゆえの交通事故リスクから解放され、安心して乗れるようになる事でしょう。
ロボットタクシーはレベル5自動運転そのものがまだ実用化へ多くのハードルを残していますし、今すぐ実用化とはいきません。
しかし、元より走る道路が決まっている路線バスは、どこを走るかその時次第のタクシーと違い、一度路線を実走してデータを取れば、違う道はほとんど走りません。
リアルタイムで地図を作りながら新しい道も走る必要がある自動運転タクシーとは違い、ハードルは一段低くなっており、既に実用化されている自動運転バスもあります。
(IRORIO:「世界初!自動運転バスが公共交通機関としてスイスで運用開始」http://irorio.jp/glycine/20160629/331369/)
自家用として運転するだけでも事故率の高い高齢者ドライバーが、公共交通でその割合を増加しているという事は、公共交通の利用者にとっても大きなリスクです。
バスやタクシー車両自体の安全性向上が、必ずしも高齢者ドライバーの事故低減に繋がらない事を考えれば、一足飛びに自動運転へと移行する事を、真剣に考える時期が来ているのでは無いでしょうか?