総務に求められる「ファシリティマネジメント」とは
建設業や不動産業など、ビル・店舗・工場などの敷設や維持・管理に深く関わっている業種はもちろん、事業を問わず経営者や設備・施設の責任者であれば、「ファシリティマネジメント」というワードを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。このワードには多様な意味が含まれるため、「ファンシリティマネジメントとは?」と質問に対し、明確に回答することができないという方も多いはずです。
本記事では、企業運営の中核を担う総務にとって、「腕の見せ所」とも言えるファンシリティマネジメントとは何か、その本質についてわかりやすく解説します。
目次
総務の真骨頂!ファシリティマネジメントとは
ファシリティとはビジネスの世界では「企業活動に不可欠なすべての施設・付属財産」を指す言葉として使われます。つまり、企業や団体の経営に関わるビルや工場などといった施設のオーナーもしくは使用者が、土地・建物・機器及び環境を企画・管理し、そのすべてをより効率的に活用していくためのマネジメント(経営管理)のことを指します。
もっと言うなら、人材・資金・情報に次ぐ「第4の経営資源」であるファンシリティを、適切に点検・メンテナンスすることで、取引相手との便宜や融通を取り付ける便利な場所としても使えるよう、執務・作業・居住空間の環境まで整えようという考えです。
これはアメリカで生まれた新しい経営管理方式で、その実施・実践が世界経済や国際貿易の発展に大きく寄与するという観点から、2018年4月には国際標準化機構より、「ISO 41001」という国際規格が発行されています。具体的には、省エネ対策された照明・空調の導入や高断熱化・耐震構造の採用、内装・外観の美化活動や通勤及び構内移動手段の整備など、そこで働く社員が快適に過ごせるような施策を講じることもファシリティマネジメントの1つ。
たとえば、営業活動が功を奏して大きな取引が決まったり、積極的な求人活動で優秀な人材が集まったりしても、ファンシリティマネジメントが行き届いておらず、職場の環境が劣悪だったらどうでしょうか。執務・作業効率が思ったほど上がらず、契約不履行を引き起こしたり、せっかく集めた人材が流出したりするなど、企業・組織にとって様々な不利益が発生するかもしれません。
そこで、ファンシリティ運用の最適化によって労働効率の向上や労働環境の改善などを図り、ひいては企業の収益性UPを実現する経営手法として注目されているのが、ファンシリティマネジメントなのです。
ファシリティマネジメントのおける「3つの柱」
前述したとおり、ファンシリティマネジメントは企業が収益性向上を果たす経営手法の1つですから、施設の新築から取り壊すまでにかかる総費用、いわゆるLCC(ライフサイクルコスト)を下げつつ、作業効率・労働環境を維持していくかが重要です。
そのため、ファンシリティマネジメントを推し進めていくうえでは、以下の「3つの柱」を行動指針として抑えましょう。
定期的な修理・修繕によって全固定資産の経年劣化を抑える
これは、ファンシリティマネジメントというより施設管理全般に通じることですが、3ヵ月や半年など施設の規模や種類に合わせ適切な頻度で点検を行い、必要に応じ修理・修繕を実施して、施設を長持ちさせることが大切です。当然ながら、メンテナンス費用は掛かりますが、施設・設備の破損や故障を起因とした事故の軽減や、営業活動の停止・遅延などを防ぐ効果も期待できます。
防災・防犯対策を講じて安全を確保する
耐震・耐火構造を採用して施設の倒壊や火災による損失を最小限に留め、避難経路の確保や避難・消火訓練などの適時実施で従業員の安全を守ることも、ファンシリティマネジメントの1つです。また、物的・知的財産の盗難や損失を防ぐ対策を講じること、コンピューターウィルスの侵入などサイバー被害に対抗する対策も立てておきましょう。
さらに、with・afterコロナ時代を見据え、密になりにくいオフィスレイアウトの採用や換気・空気洗浄機の設置、分割出勤やリモートワークの実施などといった感染対策も、今後はファンシリティマネジメントに含まれてくるでしょう。
エネルギー効率向上のため様々な省エネ対策を講じる
既存の施設管理、とくに高度成長時代のそれと最も異なるポイントかもしれませんが、施設の各所に防熱・防湿効果のある壁を採用したり、省電力・省燃料性能に優れた照明・空調機器を積極的に導入したりするなど、可能な限り省エネ対策を取り入れていきましょう。
また、ファンシリティマネジメントの対象は全固有資産ですから、社用車をガソリン・ディーゼル車からEV・HV車へ転換することも、ファンシリティマネジメントの1つになります。
このような省エネ対策は、光熱費・燃料費削減という目に見える実利が得られるのはもちろんのこと、従業員の労働環境向上効果や、企業として社会的道義(コンプライアンス)を守っているという、格好のアピールにもなります。
単なる施設管理とは違う?ファシリティマネジメントの効果
ファンシリティマネジメントは、施設管理とよく混同されがちですが、両者はやるべきことも違えばその効果も異なります。
たとえば、普段、仕事やプライベートで毎日のように利用する自動車は、安全に走行するという最低限の役目を果たすため、車検や法定点検などが法律で義務付けられていますが、暑さ・寒さをしのぐエアコンの点検・整備や、カーナビ・コンポなどの設置、その他ドレスアップパーツの装備などに関しては、厳しい法的拘束はなく、すべて個人の意志に任されています。
これと同じで施設管理の主たる目的は保全・維持ですが、ファンシリティマネジメントの目的は施設及びその環境を「最適に・効率的に」使うことですから、つまり目指しているものがそもそも違います。また、下表で示している通り、施設管理とファンシリティマネジメントとでは、その対象や必要とする知識・技術などが異なります。
種別 | 施設管理 | ファシリティマネジメント |
性質 | 「施設」の管理 | 「施設経営・戦略」の管理 |
目的・効果 | 施設の維持・保全 | 施設・資産の最適化 |
対象 | 施設 | 全固定資産及びその環境 |
基準 | 現状 | ライフサイクル・将来まで |
実務担当部署 | 総務・施設管理部署など | 部署横断・全社的 |
関連知識・技術 | 建築・不動産・設備機器の知識 | 建築・不動産・財務・経営・情報・環境・心理・人間工学 |
既存の施設管理はあくまで建物や機材などが対象であり、維持・保全が目的・効果であるのに対し、ファンシリティマネジメントは居住・執務・作業空間などの環境も対象に含まれ、その最適化が「目的・効果」となります。そのため、施設管理の効果は及ぶ範囲が施設単体に留まり、実務を担当する総務・施設部署に労力と責任が集中し人的・時間的負担が増えるため、効果にどうしてもばらつきが生じてしまいます。
その点、ファンシリティマネジメントは舵取りこそ総務が行いますが、部署横断であるため、コストカットや業務改善など、最適化による効果が大きいのです。
車両管理・アルコールチェックの課題解決をSmartDrive Fleetがサポートいたします。以下から気軽にご相談ください。
SDGsの一環!ファシリティマネジメントの具体例
ファンシリティマネジメントの普及・定着を推進している「日本ファシリティマネジメント推進協会(JFMA)」は、他の模範となる優秀なファンシリティマネジメントを規格・実施した企業・組織を対象に、毎年「JFMA賞」を贈呈しています。ここでは、2021年12月に発表された「第16回日本ファシリティマネジメント大賞」において、「優秀FM賞」を受賞した3社をピックアップして紹介いたします。
リクルート 築60年の自社ビルをニューオフィスにリニューアル
求人広告や人材派遣を始め、住宅・結婚・旅行・飲食・美容分野の販促など、人と企業を繋ぐビジネスを手掛ける(株)リクルートが今回のテーマに掲げたのは次の4点です。
- チーム・アクティビティ・ベースド・ワーキング・・・オフィスをワーカーが「常駐する」場所ではなく「集まる」場所と仮説し、チームのサイズに併せ密にならないよう空間のゆとりを持たせたり、什器に可動性を持たせるなどの工夫を凝らしている。
- ワーカーのストレス解消と健康促進・・・オフィス什器の「高機能性」と通・退勤時の意外な「運動量」に着目。出社することで在宅ワークでは得られない充実した機能で仕事ができ、心身ともに健康に過ごす一助になる様、オフィスを設計。
- 非接触型オフィス・・・自動扉やタッチレスの照明スイッチなどの採用で、従来より接触機会を88%以上削減に成功。
- 古ビルの最大限活用・・・築古ビルを総イノベーションすることにより、使えるものは壊さず、新しいものを無駄に作らないという、省資源・省エネ対策を実現。
1〜3はwithコロナを、4はSDGsを強く意識したもので、今という社会の転換期にファンシリティの常識を疑い、様々な仕掛けによって「ニューオフィススタンダード」を展開しています。
富士通 新しい働き方を実現する「BorderlessOffice」を推進
富士通はIT関連の国内大手らしく、コロナ以前から限定的にリモートワークを導入したり、実際に顔を突き合せた旧式の対面会議を廃止し、オンラインミーティングを選択肢として加えたりするなど、率先して働く環境を変えてきました。
コロナ禍に突入したことで、各企業が在宅ワークを始めとする新しい働き方を実施せざるを得ない状況になるという考えから、下記4点を排除すべき障壁に据え、「BorderlessOffice」の実現を推進しています。
- 勤務地・国境などロケーションのBorder
- 部門・会社間など組織的なBorder
- 国籍・障害・性別などダイバーシティを阻害するBorder
- 固定観念など思考のBorder
具体的には、社内外とのコラボ機能に特化した「HubOffice」を首都圏に4か所、リアル・バーチャルの双方でつながる「SatelliteOffice」を全国23か所・3,000席規模で、ソロワーク・リモートワークに利用する「Home&ShareOffice」を全国に約700ヶ所設置。
従来のセンターオフィスが持つ機能をこの3つのオフィスに分散することで、新しい働き方「WorkLifeShift」を具現化し、現行オフィスの半減とWorkプレイスの無尽蔵な増加によって、将来的には「通勤」という概念までもなくそうと取り組みを進めています。
東京都板橋区 公共施設マネジメントの取り組みが最優秀賞を受賞
この年、最優秀賞に当たる「鵜澤賞」を受賞した東京都板橋区は、公共施設マネジメントへの取り組みとして2015年に基本構想が議決された、「いたばしNO,1プラン2021」をローリング(改定)。
新たに「NO,1プラン2025」と名付けられたその取り組みの中で、
- 板橋区平和公園へ「中央図書館」を改築移転
- 「板橋区立美術館」の大幅改修
- 東板橋区体育館の大規模改修に併せ植村冒険館を複合化
- SDGsを体現した「板橋子供動物園」の開園
など、同区が管理する公共施設の改築・改修を行うなど、山積するFM課題への対応が評価されました。
まとめ
ファンシリティマネジメントは単なる経費削減の策ではなく、施設及びその環境の最適化によって、企業や組織の継続的な成長つまり「SDGsの実現」を促す、非常に有意義な施策です。
施設全体をそっくり立て直すことはできませんが、空調・照明機器の見直しなど部分的・段階的にファンシリティマネジメントを進めていくことも可能ですし、清掃やマニュアルの確認など施設・設備を大切に取り扱う努力、避難経路の確認や避難訓練の実施などの防災対策はコストをかけずに実現できます。これらを徹底するだけでも十分効果が見込めることでしょう。