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【最新版】BCP対策とは?目的や作成のポイントまで完全解説

地震・台風・豪雨といった自然災害だけではなく、事件・事故や不祥事などといった「予期せぬ危機」がいつ発生するかわからない今、BCP対策の策定を始める企業が増えています。しかし、BCP対策について深く理解していないが故、効果的な対策を策定できていなかったり、中には日常業務の忙しさを理由に、対策の策定を後回しにしたりしている企業まであるようです。

そこで今回は、BCP対策を策定する意義や、なぜ企業が取り組むべきかなどを整理した後、その策定方法と運用のポイントを、一定の成果を挙げている具体的な事例を交え解説いたします。

【最新版】BCP対策とは?目的や作成のポイントまで完全解説

目次

BCP対策とは

BCP対策とは、企業におけるリスクマネジメントの一種で、地震・台風などの自然災害や事件・事故・不祥事といった人的災害が発生した際、事業に関わる被害を最小限にとどめ、速やかな復旧と事業存続ができる体制を整えることを指します。その内容は緊急時の指揮命令系統整備、バックアップシステム、代替要員の確保、迅速な安否確認のフロー、マニュアルの整備と、多岐にわたります。

BCMと防災対策

BCPを正しく理解するには「BCM」と「防災対策」という用語の理解も欠かせません。それぞれの意味そしてBCPとの関連性を解説します。

BCM(事業継続マネジメント)

企業や組織の事業は「計画・実行・確認・改善」という4つのプロセスを繰り返すことで継続・成長します。これを「事業継続マネジメント(BCM)」と言い、BCPはこのプロセスの「計画」に属します。

防災対策

自然災害などの発生に関し、企業が取り組むべき対策のことを言います。防災対策は企業の不動産・人命・情報といった財産を災害から守ることが目的ですが、BCP対策は事業を守ることが目的です。

BCPはあらゆる非常時、防災対策は自然災害時

BCP対策は自然災害をはじめ、近年の新型コロナウイルスの感染拡大、断水や停電、テロ、リコール、サイバー攻撃など、外的および内的要因を含むあらゆるリスクへの対策を指しますが、防災対策は地震や大雨洪水、津波など、自然災害の対策が対象です。

BCPは他社も対象、防災対策は自社が対象

BCPはさまざまな非常事態に直面しても、企業が事業を継続させることを目的とした対策です。取引先企業や提携先企業がある場合は、足並みを揃えるために共同で策定することもありますし、業務データ復旧までをつなぐバックアップシステムを保有するケースも少なくありません。そうすることで、コストの低減、事業の継続ができる体制を構築できるからです。防災対策は基本的に、自然災害から自社が保有する資産を守るための対策であるため、対象は自社のみとなります。

防災対策もBCP対策も事前に備えるもの

BCP対策は有事に備えて事前に策定しておく必要がありますが、その対策自体は非常事態の発生時に講じます。一方、防災対策は企業の現物資産を守るための対策であり、事前に対策を講じます。

なぜ、BCP対策が必要なのか

事業継続計画(BCP)対策が注目された背景

BCPがもっとも注目されたのは、2001年9月に発生した米国での同時多発テロの時でした。ニューヨークにある世界貿易センターの近隣にあったメリルリンチをはじめとする多くの企業が、BCP対策として事前に備えてあったバックアップオフィスなどを活用し、業務の中断を最小限に抑えることができたことが話題となり、一気に普及が拡大したのです。しかし、国内で注目されたのは2011年3月の東日本大震災発生時でした。広域にわたる大規模な損害を目の当たりにし、対策の必要性を考えるようになったのかもしれません。

企業におけるリスクマネジメントへの必要性

実際に、帝国データバンクが2011年に実施したBCPについての企業の意識調査においては、東日本大震災以前にBCPを策定した企業は7.8%でしたが、2019年3月に株式会社NTTデータ経営研究所が実施した「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査(第5回)」では、策定していると回答した企業は43.5%、策定中も含めると64.9%とBCPへの意識が全体的に高まっていることがわかります。

2012年11月には、ISO-22301「事業継続マネジメントシステム・要求事項」が発行され、BCPの考え方や対策の国際標準化が進んでいます。近年は新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻など、さまざまな要因によって事業継続へのリスクが増しています。そんな中、帝国データバンクが2022年度におけるBCPへの調査を行ったところ(※)、自社におけるBCPの策定状況については「策定している」企業の割合は17.7%で昨年より0.1ポイント増加。割合としては大企業が33.7%、中小企業は14.7%と、中小企業の策定率は依然として低いままであることがわかりました。

自然災害のみならず、サイバー攻撃やシステム障害、情報漏洩など、「いつ、何が起きるかわからない」という不透明なリスクは増え続けています。従業員と企業を確実に守るためにも、今後ますますBCP対策への取り組みが企業に求められるようになるでしょう。

※調査期間:2022年5月18日〜31日、調査対象は全国2万5.141社、有効回答企業数は1万1.605社(回答率46.2%)

 BCP対策を実施する2つの大きな目的

従業員という最大の資産を守る

企業の一番の資産とも言える従業員。事業を安定させ、成長させていくためにも人材という宝は欠かせません。自然災害や感染症が起きても安心・安全に業務が行えるようにしましょう。

企業としての価値を高める

緊急事態に直面しても、損害を最小限にとどめ、中核となる事業が継続できる状態、あるいは早期復旧ができる状態にあれば、倒産や事業縮小を余儀なくされることもありませんし、「長く安心して働ける企業」として採用面でも大きな強みを発揮します。また、取引先からも安心して契約を続行してもらえるでしょう。

また、CSR(企業の社会的責任)の観点でもBCP対策は有用です。2009年に経団連が実施したCSRに関するアンケートの結果によると、CSRへの基本的な考え方の上位には、「リスクマネジメント」「企業価値創造の一方策」「企業活動へのステークホルダーの期待の反映」、CSR活動の意味については前述の回答に「持続可能な社会づくりへの貢献」が追加されていました。BCPの基本となる考えやキーワードと重なる点が多く、企業の成長にはどちらも欠かせないと言えるでしょう。

BCP対策を策定する意義と必要性

たとえば、製造業を営む企業・A社が、まず「商品を100個製造する」という計画を立てなければ、それに必要な原材料を適切に確保することも、生産ラインや物流体制を整備することもできません。BCMにおいてはBCP対策を策定することが第一歩であり、効率的かつ実用性のあるBCP対策=計画を練らない限り、以降のプロセスは進まず、事業の継続が難しくなります。

また、A社が自社の生産力を大幅に上回る計画を立ててしまった場合、生産ラインや物流に無理が生じ事業が継続できないばかりではなく、しわ寄せを受けた各部署から貴重な人的・物的財産が流出することも考えられます。要するに、企業や組織にとってBCP対策の策定(計画)は企業にとって事業継続の根幹をなすものであり、発生しうる様々な災害に備え効率的かつ実行可能なBCP対策を練り、その上でマニュアルの策定と緊急事態を想定した訓練(実行・確認)、マニュアルの見直し(改善)を行っていく必要があるのです。

BCP対策がもたらす3つのメリット

緊急時でも動じない、強固な経営基盤ができる

新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受け、事業継続に関する課題にぶつかった企業も少なくないと思われます。従業員自体が感染したり、濃厚接触者となり自宅待機になったり、事業継続に支障を及ぼすシーンも多くあったはずです。こうした非常時に直面しても、BCP対策を策定しておけば、こうした非常事態においても的確かつ臨機応変な対応が可能になります。

企業の価値や信頼性を高めることができる

東日本大震災では、地震に伴う火災・津波などの影響により、数多くの工場が壊滅的な被害を受けたり、流通網が長期にわたり寸断されたりするなど、ありとあらゆる供給がストップしました。その結果、多くの中小企業が事業継続を断念、つまり倒産という憂き目を見ましたが、事前に万全のBCP対策を講じていた一部の企業は自社のサプライチェーンをしっかり維持し、関連会社を窮地から救うことで大きな信頼を得ることができました。

これほど大規模な災害が発生すると、水道・ガス・電気・通信・交通などの生活インフラにまでダメージが及び、企業活動はおろか生命維持さえ困難になることもありますが、BCPには災害時に企業が社会貢献を行うという側面も一部含まれています。たとえば、飲料・食料品メーカーの場合なら、ミネラルウォーターや非常食などの支援物資提供を、ホテルであれば帰宅難民の受け入れなどを、BCP対策の一環として組み込み実行することで、社会貢献に積極的な企業という評価が高まります。

こうして得た信頼と高い評価は、企業にとって大きな財産となり、自社の利益だけにとらわれることなく、社会的責任や道義をわきまえたCSR活動に積極的な企業として、顧客や取引相手はもちろん、投資家にも良い印象を与えるでしょう。

自社の強みや弱みが明確になる

現状を把握することで、今、自社に足りないものを理解し、それを捕捉するための施策を考案することができます。現時点で足りないものは何か、優先して補うものは何かが明確になると、今後の事業戦略などへつなげていくこともできるでしょう。

BCP対策の策定方法

外部委託すべきか、自社で策定すべきか

実際にBCP対策を策定することが難しいという場合は、BCP対策に詳しい外部コンサルや行政書士に頼るのも一つの手です。

行政書士が人事や商取引などに関する法務に明るい半面、外部コンサルは業界ならではの事情やIT・システム関連の知識に関して強い傾向にあります。費用的には行政書士が数十万円からと安価であることに対し、外部コンサルは業界の事情や市場動向に即したきめ細かなBCP対策を立案してくれる一方で、比較的高価になる側面があると言えます。

いずれにせよ、BCP対策に関する知識の深さや経験などには外注先によって大きな差があり、策定のサポートやアドバイスに留まるところから、計画の立案・実行・確認・改善までじっくり付き合ってくれるところまで多様なため、じっくりと慎重に決めましょう。

BCPガイドラインを参考にする

「緊急事態時の行動指針を外部に委託するのは難しい」「時間がかかってもいいから自前でBCP対策を策定したい」という場合は、経済産業省や中小企業庁から出されている「BCPガイドライン」を参考に策定しましょう。

経済産業省「事業継続計画策定ガイドライン」

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針

経産省のガイドラインは基本的な考え方から策定の大まかなプロセス、リスクの分析方法や体制づくり・教育まで、一連の流れが全52ページにわたって網羅されています。ただし、資料として膨大でやや表現方法も堅苦しいため、専門の担当者がじっくり時間をかけて策定する分には良いですが、日常業務の合間に対応するには少し時間を要するでしょう。その点、中小企業庁のガイドラインは、策定者の知識量に応じ「入門・基本・中級・上級」とコース」が分けられているほか、言葉使いや表現も柔らかめで分かりやすいため、策定が進めやすいかもしれません。

感染症対策も追加

上記で紹介したガイドラインには、現時点において感染症対策に向けた内容が盛り込まれていませんが、コロナ禍のなかで実際に起きたこと、それを経てわかったこと、こうしておくべきだったことなどを洗い出し、それに対する改善策をガイドラインに追加していきましょう。

BCP対策に盛り込むべき3つの対策

BCPの策定にあたり用意したいのは次の3種類を盛り込んだマニュアルです。いずれも事業継続の観点で欠かせないものです。

【対策1】自然災害対策:地震・水害・竜巻など

地震をはじめ、大雨による河川の氾濫、津波、台風、豪雨や火山噴火など、自然災害が多い日本。昨今はとくに地球温暖化により世界各地でたびたび異常気象が発生しています。迅速かつスムーズな安否確認のフロー、人命救急と病院などの医療体制、避難方法、被害の確認方法や連絡手段、緊急時の連絡先、優先して対応すべきことなどをまとめましょう。

自然災害における早期復旧に向けた重要なポイント

  1. 人的リソースの確保
    感染症が蔓延した時のように、施設が復旧しても人的リソースが確保できない場合も考えられます。その際にどのようなオペレーションで運用するのか、代替要員をどうするのか、自宅待機の社員にどのような指示を出すのかを明確化しましょう。
  2. 施設や設備
    本社以外に、生産拠点となる工場や設備を持っている場合、自然災害による復旧作業が終わるまで、運用をストップしなければなりません。生産ラインが稼働できなくなった際に、代替手段をどうすべきか、人員の配置をどうすべきか、ネットワークや設備の復旧手順を検討し、代替先の企業、施設一覧を作成しておきましょう。
  3. 資金
    どんな災害が発生すればどの程度の損害を受けるのか、企業の事業継続に欠かせない資金面について把握し、中小業庁の公的支援制度を活用するなど、もしもを想定したキャッシュフローについても構築しましょう。
  4. 被災時に指揮を取る体制
    被災した際に誰がどこへどのような指示を出すのか、指示系統を明確にしましょう。
  5. データのバックアップについて
    日頃からPCで作業している企業も多くありますが、被災でシステムが故障し、データがすべて失われることを防止するため、バックアップが取れる体制を構築してきましょう。

【対策2】外的要因対策:取引先の倒産やサイバー攻撃など

外的要因対策とは、提携していた企業の倒産や感染症など、会社の外で起きた問題によって起きるリスクへの対策です。

とくに近年は自治体や重要なインフラを狙ったサイバー攻撃が増えています。企業においてはランサムウェアと言われるコンピューターにウイルスを感染させる方法が広がっており、セキュリティ対策が急務となっています。企業の機密情報や顧客情報が漏洩してしまうと、企業のセキュリティ対策の甘さ、そして信用問題に関わってきます。データの復旧方法や情報が漏洩した際の連絡先、対応策などをまとめておきましょう。

【対策3】内的要因対策:人的ミスや不祥事が発生したリスクを考慮する

内的要因とは、人的ミスによる情報漏洩やSNSでの炎上、設備故障などが該当します。最近ではSNSの普及により、発売前の商品がネットに流出してしまうなど想定外の事象が発生することも。自社の事業を営む中であり得そうなシーンを考慮し、謝罪に関する対応やフロー、謝罪に関する定型文作成といった対策をマニュアルへ落とし込みましょう。

BCP対策策定時に考慮すべきこと

自社事業を踏まえた独自の対策を構築する

先ほどマニュアルについて解説しましたが、自社の事業と拠点場所を考慮したうえで、自社に必要な対策を構築しましょう。

どのようなリスクが想定されるか、従業員や取引先、多拠点なども含め、大小ありとあらゆるリスクを洗い出し、自社事業を継続するための優先順位を決め、対策をまとめていきます。従業員や現場にヒアリングして、リスクになりそうなことをピックアップするのも良いでしょう。

社内・社外と連携して策定することを検討する

冒頭でも説明したように、自社施設が使えなくなった際などを想定し、取引先や提携先と連携してBCP対策の策定をすることも検討しましょう。社内外で連携をとり、BCP対策の内容に関係する全従業員へ周知徹底させることも大事です。

優先事業を決めたうえで事業ごとの対策を決める

多数の事業を展開している企業の場合、どの事業の復旧作業を優先すべきか、優先順位を決めておきます。もっとも多くの売り上げを占めている事業は? 市場の中でニーズの大きい事業は? 顧客数が多い事業は? 顧客にとって必要不可欠な事業は?など、売上と取引先、市場など、多方面から優先順位を決めましょう。

あらかじめ損失の分析をしておくとベスト

たとえば、大地震が発生した時を想定し、本拠および生産ラインのある工場が被災したことを想定し、事業がストップすることでどれくらいの損失が発生するのか、復旧に必要な期間と費用はどれくらいか、被災した際に活用できる補助金や補償制度は何があるのか、それがいくらぐらいかを調べてまとめておくと、いざ被災した際に素早く行動することができます。復旧作業に時間を要する場合は、代わりとなる生産ラインを確保することも重要です。

優先する事業を決める、事業ごとの対策を検討する

最優先で復旧対応すべき事業を決め、事業ごとの対応策を詰めていきます。それぞれの事業がもとの運用体制へ戻るまでの時間、それまでの資金、人員配置はどうするかなど、細かく落とし込んでいきましょう。

今回のコロナでは、外出自粛に伴うリモートワークが一気に普及しました。リモートワークを実施する際に何が必要だったか、何が課題になったか、セキュリティ対策はどうすべきだったのかなど、実際に感じた課題から今後に備えて起こり得ることを想定した具体策を盛り込みましょう。

BCP対策の実施基準と手順を明確にする

BCP対策の策定ができたら、実施する基準、担当者(指示者)、指示系統などを決めておきましょう。また、BCP対策を策定したら、必ず役員も含めた全従業員に共有し、周知徹底を行います。

BCP対策は策定後が重要!社内外における大切なポイント4点

社内:被災時の具体的な動き方を明らかにして、従業員へ共有する

策定後にもっとも重要なのは、企業に勤める全社員に共有し、認識を合わせ、BCP対策のマニュアルに応じた行動を取れるようにすることです。定期的にマニュアルに目を通す機会を作る、研修を実施して学ぶ機会をつくるなど、内容を理解し、しっかり活用できる体制を整えましょう。

社内:対策に沿った教育、対応訓練を実施する

少し手間はかかりますが、BCP対策への理解度を図るために、簡易テストや訓練をするのも周知させるために有用な方法です。ディスカッションの場を設けたり、勉強会を実施したり、被災にあったことを想定した訓練を実施するなど、自分ごと化できる機会を創出しましょう。

社内:常にPDCAを回し改善する

BCP対策のマニュアルは、一度策定したら終わりではありません。上記のように、実際にテストや訓練を行った上で、改善点や新たな課題が見つかった場合は、その都度アップデートしてください。

社外:顧客と協議をして目標を定めておく

社外においては、事前に顧客と被災時、非常事態時の対応を共有し、通常時に戻るまでの具体的な運用フローについて目標を定めておきます。何も情報を共有していないと、たとえ非常事態であっても顧客や取引先へ不安を与えることになります。損失のリスクと復旧までの期間などをもとに、情報を共有しておきましょう。

BCP対策を策定する際の課題

策定や共有に時間とコストがかかる

BCP対策の策定は、各部署からの意見や情報共有、取引先などとの連携、リスクの洗い出し、分析、具体策への落とし込みなど、時間を手間、そしてコストを要するものです。しかし、有事へのリスクを考慮すれば、綿密に対策を立てておくべきですし、企業のリスクマネジメントの観点でも非常に重要なことです。

機能しないこともある

あくまで、現時点でのリスクを想定した計画であるため、想像以上に大きな脅威、被害を被ってしまった場合は全てが確実に機能しないことも考えられます。それでも被害を最小限に押さえ、事業を維持するために必要なものと捉えてください。

ノウハウがないので策定に着手できない

独立行政法人経済産業研究所が発表している「事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」の結果と考察では、策定していない企業の理由に「スキルやノウハウがない」「策定する人手を確保できない」が多数の意見を占めていました。しかし、何も策定していないままでは、緊急事態に遭遇した際に業務がストップするなど、大きな損失をうむことになりかねません。前述したガイドラインを活用したり、外部へ委託をしたりするなど、策定方法を検討してみましょう。

海外のBCP普及事情

先述したように、米国では2001年の同時多発テロを受けて、公的機関と民間企業が一体となり、災害対応能力を向上させていかねばならないとして、国土安全保障省(DHS)が主導となり対策を推進しています。DHSは2004年9月より、中小企業の緊急事態対応計画の促進を目指す『Ready Business』プログラムを開始。自然災害や人的災害を想定した脅威について、BCPの策に必要な情報、テンプレートを紹介しています。

同時多発テロは、全世界の金融システムの中心を数日間にわたり機能停止させるという、大きな混乱を招きました。バックアップを設置・確保している機関もありましたが、被害が広範囲に及んだため、復旧までに時間を要してしまったのです。こうした事態に直面したことで、金融機関でもBCPへの取り組みが急速に高まりました。

また、2012年10月にアメリカの東海岸を襲った大型ハリケーンは、多くの死者を出し、8兆円規模の被害総額になりました。被害の大きかった地域のニュージャージー州に拠点を置いていたITコンサルタント、ITサービスを提供するeMazzanti Technologiesもオフィスが浸水し、電力がストップ。しかしながら、IT-BCP対策の策定をしていたため、顧客データは72時間内に復旧し、データ損失はありませんでした。その成果により、評価がぐんと上がり、業績にもつながっています。

アジア地域においてもシンガポールではシンガポール金融管理庁が金融機関向けに事業継続マネジメント(BCM)のガイドラインを作るなど、システム障害や感染症が蔓延した時も安定して事業が継続できるように対応を進めています。

日本は自然災害がとくに多く、影響を受けやすい国です。そのため、もしもの事態が訪れても事業が継続できるよう、強固な対応策を用意しておくべきだと言えるでしょう。

業種別でみる国内のBCP普及事情

独立行政法人経済産業研究所が発表している「事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」の結果と考察によると、業種別のBCP策定率は金融業・保険業(50.0%)、情報通信業(32.5%)、建設業(28.1%)、電位・ガス・熱供給・水道業(28.0%)と、生活インフラ関係が上位を占めていました。

BCP策定企業のリスクマネジメントに関する経営者のマインドで興味深いのは、策定を通じてリスクへの予見可能性が高まると認識している企業が多いこと。加えて、「平時の経営効率化にも良い影響を与える」と回答している企業も多く、BCPの策定が平時においても良い効果をもたらしていることがわかります。

BCP対策の国内事例3選

三菱電機 県外関連工場での増産で不足分を補てん

国内第2位の売上高を誇る、大手総合電機メーカーの三菱電機は、「サプライチェーンにおける事業継続」を自社BCP対策の指針として掲げています。

具体的には、現在稼働中の生産拠点が災害に遭遇、壊滅的な被害を受け生産が困難な状況に陥っても、別の場所に拠点を移すことで生産継続を目指すというもので、複数の生産拠点を分散して有する巨大メーカーにとっては非常に効率的なBCP対策です。

事実、2016年4月の熊本震災で三菱電機は県内2か所の生産拠点が被災し、半導体を製造するうえで欠かせないクリーンルームが壊滅的ダメージを受けましたが、BCPに則って県外にある生産委託先工場の生産量を増やすことで、不足した生産量を補いました。同時に、本社から応援エンジニアを現地に派遣し復旧作業を進めた結果、震災発生から1ヶ月経たない翌月10日には、被災した熊本県内の工場が2ヶ所とも再稼働にこぎつけています。

本田技研工業 過去の大震災を教訓に耐震工事を完了

過去に発生した災害での被害状況を教訓にBCPを見直し、事業所の耐震工事や非常用通信網・災害備蓄品の整備などといった対策を進めた結果、再び訪れた危機に動じることなく、早期の事業再開を果たしたのが、大手自動車メーカー・本田技研工業です。

本田技研工業は2013年3月に策定した「BCPポリシー」の元、首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模地震を想定した対策を講じていましたが、熊本震災で国内唯一の2輪車製造拠点が被災しました。しかし、東日本大震災発生後にBCPを根本から見直し、耐震工事や水・食料などの備蓄、従業員の避難訓練などの備えを着実に進めていた結果、熊本震災時も慌てることなく、被害を最小限に食い止めることができたそうです。

東京エレクトロン 取引各社との連携で危機を回避

災害は企業の規模に関わらず降りかかってきますが、前述した三菱電機やホンダ自動車のように、生産拠点の移行や耐震工事などといったBCP対策の策定・改善に、多くの人員やコストを費やせる企業ばかりではありません。『一企業として万全のBCP対策を講じるのが難しいのなら、関連企業や取引先と密に連携し業界全体で災害に備えよう』そうした考えで成功した例が、半導体やFPD製造装置の開発・製造・販売を手掛けている東京エレクトロンです。

同社は、数多い取引先拠点の生産力などをデータ化し、それを関連企業間で共有することによって、災害発生時の速やかな被害状況把握及び復旧への取り組みを、業界が一体となって進められる体制を整備したのです。東京エレクトロンは、熊本震災で九州にある主力工場が被災しましたが、取引先との連携で迅速な対応ができ、効率の良い復旧作業を進められた結果、震災発生10日後の4月25日頃から、段階的にではありますが生産再開にこぎつけています。

同社のように、生産した部品を取引先に納品するサプライ企業にとって、取引先がいつどの程度の量の部品を必要とするかを数的データで把握し、それに則って復旧スケジュールを決めるという作業は、BCP対策に必ず盛り込んでおくべき項目と言えるでしょう。

BCP対策とDCP対策

DCP(District Continuity Plan)対策−地域継続計画−とは、被災時に優先して復旧すべき箇所やあらかじめハード対策を講じておくべき箇所を事前に地域で合意形成のうえ決定し、発災直後から各組織が戦略的に行動できる指針として定める計画のことを言います。

DCPは2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に日本で誕生し、地震や津波、大規模洪水や台風被害など、広域災害から「地域の人命・財産の保護と健康な社会生活の維持」を目的に社会機能の維持を考えるものです。いち企業がBCP対策を策定し、講じたとしても、広範囲にわたる大規模災害に見舞われた時は企業だけでは対応が困難です。非常時にサプライチェーンを継続していくためにも、企業と事業を営む地域、官民が一体となり、協力して取り組めることが重要です。

目的別:BCP対策に活用したいクラウドツールやサービス4選

「被災のためオフィスが利用できなくなった」「遠隔地の社員と連携をとるには?」

BCP対策をスムーズに実行するためにも、事前に準備しておきたいのがITを活用したサービスやツールです。ポイントは次の3つ。

  • 企業の資産となる重要なデータを確実にバックアップ/復元できること
  • 遠隔、自宅からでも従業員が業務が滞りなく行えること
  • 管理者が遠隔地にいる従業員の安否確認を行えること

データのバックアップ保管を確実に行う〜「Synology」

出典:日立システムズ「Synology

全世界において900万台の出荷実績を誇るのが、日立システムズのSynology。ストレージとソフトウェアが一体化したファイルサーバで、BCPからウイルス対策、データ保護などがスムーズに実現できます。自社の大事なデータを確実に守り、事業を継続できる体制を構築しましょう。

サイトとデータベースをすばやく復元〜「torocca!」

出典:GMOインターネット「torocca!

素早くサイトのデータやデータ復元・バックアップを行え、サイトパフォーマンスからサイト内のマルウェア、不正プログラムの進入を365日24時間でモニター監視してくれるGMOインターネットのtorocca。容量25GB/月額550円のスモールスタートアできるのも魅力です。

安否確認からデータの保全まで。どこでもアクセス可能なリモートアクセスツール「サイボウズ Office」

出典:サイボウズ「サイボウズ Office

サイボウズ Officeは安否確認から従業員間の情報共有、ファイルの管理まで、災害発生時でもリモートで業務がサクサク行えるクラウド型サービスです。日本人の働き方に合わせて1997年の発売以降、つねに進化を続け、20年以上の歴史と累計導入社数7万社突破という、信頼のおけるサービスです。スマホやタブレットから簡単操作で使える点も大きなポイントです。

遠隔でも車両の状況を確認できる 〜車両管理システム「SmartDrive Fleet」

車両を多く保有している、事業で車両を活用する機会が多い企業の場合、突然の自然災害発生時にドライバーの安全を確保するためにも安否確認と状況を早急な把握が必須です。リアルタイムで位置情報を確認し、管理者が迅速に適切な指示を出すことができる、それがクラウド型車両管理システムの「SmartDrive Fleet」です。

BCP対策ツールと安否確認システムの違い

BCP対策ツールとは、データのバックアップと保管、復旧ができたり、リモートワークを支援したり、非常時においても事業が継続できるようにするためのシステムやツールの総称を言います。一方、安否確認システムは災害発生時に従業員の安否確認を行うためにメールを一斉送信し、状況を集計し把握するためのシステムです。災害発生時に自動でメールが送れるため、従業員の安否を素早く確認することが可能です。いずれも、災害時に備えて用意しておくと非常に役立つサービスです。

従業員へのレクチャーを進めBCP対策ツール・サービスを機能させ

これらのツールはいずれも非常時に役立つものばかりですが、そもそも従業員に理解されていなかったり、使い方について周知ができなかったりすると意味をなしません。事前に研修やeラーニングなどでわかりやすく解説し、いざというときでも早急に利用できる体制を整えておきましょう。

今こそ、ITツールやシステムを活用してBCP対策を万全に整えるとき

現在、私たちは新型コロナの感染拡大という今までかつてない危機に遭遇していますが、今後、コロナが去った後にどんな災害が訪れるか誰にもわかりません。BCP対策は国から義務付けられたものではありませんが、企業や組織が危機に生き残っていくために不可欠な命綱です。時間と労力、そしてコストが必要ですが、いざという事態に備えて策定しておくのはもちろん、状況に合わせ定期的に見直しやアップデートするようにしましょう。

筆者紹介

株式会社スマートドライブ
編集部

株式会社スマートドライブ編集部です。安全運転・車両管理・法令遵守についてわかりやすく解説します。株式会社スマートドライブは、2013年の創業以来、「移動の進化を後押しする」をコーポレートビジョンに掲げ、移動にまつわるモビリティサービスを提供しています。SmartDrive Fleetは、1,700社以上への導入実績があり、車両に関わる業務の改善や安全運転の推進などに役立てられています。また、東京証券取引所グロース市場に上場しています。 SmartDrive Fleetは情報セキュリティマネジメントシステム適合性評価制度「ISMS認証(ISO/IEC 27001:2013)」を取得しています。

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