物流業界で問題視される荷待ち時間とは — 概要や記録の義務化について解説
トラックドライバーの長時間労働は長年大きな問題として様々なメディアで取り上げられてきました。いくつかの要因が挙げられますが、中でも今問題視されているのが業務中に発生する「荷待ち時間」です。
荷待ち時間とは荷物の積み下ろしの際にドライバーが待機している時間のこと。大変なことに、ドライバー側がいくら時間短縮を心掛けていても必ず発生してしまい、残業時間を隠す目的で使われることもあるため、業界では問題視され続けてきました。
今回はこの荷待ち時間に焦点をあて、待機時間の発生によって今までどのような弊害があったのか、そして現在どのような対策がとられているのかを紹介します。
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目次
長時間労働の要因となる荷待ち時間とは
荷待ち時間とは、荷主(荷物の持ち主、送り主)や物流施設の都合によってドライバー側が待機している時間のことであり、荷物の積み下ろし待ちや指示待ちの時間も含まれています。この待機時間はドライバー側でコントロールできないため、たとえ3時間以上待たされたとしても文句を言うことはできません。
荷待ち時間が問題視されるようになった背景には、大手宅配業における「違法な長時間労働」が影響しています。このような現状を受けて政府は、トラックドライバーの労働環境を改善する「貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正する省令」を2017年7月1日に施行、乗務記録の記載を運送会社に義務付けました。
ドライバーが「車両総重量8トン以上、または最大積載量5トン以上のトラックに乗務した場合」を対象としており、荷主の都合により30分以上待機した際に記載するよう指示されています。1運行あたりの荷待ち時間の平均が1時間45分という調査結果もあるため、この数値から頻繁に記載が必要になると予想できます。
「それなら荷主側で作業効率を改善すれば良いのではないか?」という意見もあるでしょうが、トラック運送業の9割以上が中小企業のため、顧客である荷主に対してあまり強い意見は言えないというのが実情。たとえ指定された時間通りにトラックが到着したとしても、必ず積み下ろしに掛かる荷待ち時間が発生するのが現状です。
また、物流施設の多くは到着時に他のトラックが列をなして待機していることもあるため、最悪の場合4~5時間ほど待たせられることもあります。
こうした労働環境でも荷主側から追加料金などは一切支払われることもなく、ドライバーの給料に反映されることもありません。この荷待ち時間を「休憩」扱いとして処理している運送会社も多く、結果としてサービス残業の温床となり、違法な長時間労働に繋がっています。
しかし荷待ち時間は“時間と場所”を拘束する立派な「労働時間」なので、決して「休憩」扱いではなく、ドライバーに適切な残業代を支払う必要があるのです。
長時間労働を抑制すればドライバーの過労死や過労自殺を防ぐこともでき、居眠り運転による交通事故の減少にも繋がります。トラックの運転は肉体的にも精神的にも大きな負担があるため、労働環境の改善は急務であり、このことから政府主導による乗務記録の義務付けは必然だと考えられます。
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荷待ち時間の記録が義務化、その概要とは
上述した通り、荷主の都合により30分以上待機した際に乗務記録を記載することが新たに義務付けられました。乗務記録の記載内容を以下にご説明します。
(1)乗務等の記録(第8条関係)
- 荷主指定の到着時刻(指定された場合)、集荷地点等への到着時刻 : 荷主側が指定した時刻と集荷地点に到着した時刻を記載する項目です。
- 荷待ち待機の開始・終了時刻 : 荷主の都合によって実際に待機していた時間を記載します(30分以上待機していた場合のみ)。
- 附帯業務の開始・終了時刻 : 運送業における附帯業務を行っている時間を記載します。附帯業務には荷造りや仕分け、運送代金に関わる主要手続きなどがあります。
- 荷積み、荷下ろしの開始・終了時刻 : 荷積みや荷下ろしに必要とした時間を確認する項目です。
- 集荷地点等からの出発時刻 : すべての作業が終わり出発した時刻を記載します。
トラックドライバーが車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上のトラックに乗務した場合、各ドライバーごとに上記項目について記録し、1年間保存しなければならないとされています。
(2)適正な取引の確保(第9条の4関係)
荷主の都合による集荷地点等における待機についても、トラックドライバーの過労運転に繋がる恐れがあることから、輸送の安全を阻害する行為の一例として加える。
上記の記載項目の中で注目したいのは「荷待ち待機の開始・終了時刻」です。待機していた時間を細かく記載し、もし合計が30分以上となるのであれば、保管書類として会社に提出する必要があります。一方で、デジタルタコグラフ(略称:デジタコ)など他の方法で記録している場合は、会社側で管理が可能なので記載は不要となります。
こうした記録を積み重ねることにより、政府も運送会社やドライバーに過度な要求をしている荷主に勧告や是正指導を行うことができるため、結果として労働環境の改善に繋がることが期待されています。
義務化の背景にある、悪質な労働環境
実際に荷待ち時間がどれだけドライバーに悪影響を与えているか、ピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
時間通りスムーズに作業が行うことができれば、ストレスもある程度は抑えることができるかもしれませんが、毎回2~3時間ほど残業が続けば嫌でも疲労が蓄積します。ただでさえ荷物の運送はトラックの運転が長時間となる重労働。変動するスケジュールは居眠り運転やスピード違反を助長するため、重大な交通事故を引き起こす可能性すらあるのです。
最近でも運送業者が違法残業で送検されたという事例は少なくありません。
事例1 : 2015年3月(大阪・茨木労働基準監督署)
日本人事総研によるとトラックドライバーに違法な時間外労働を行わせたとして、大阪・茨木労働基準監督署は一般貨物自動車運送業のA社と同社代表取締役を労働基準法第32条(労働時間)違反の容疑で大阪地検に書類送検した。ドライバーが死亡する交通事故をきっかけに、1ヵ月あたり最大120時間超の違法な残業が発覚。法定休日を与えない期間もあったとのこと。
事例2 : 2017年9月(厚生労働省愛知労働局)
日本経済新聞によると、複数の事業所での違法な長時間労働で是正指導したにも関わらず、その後も改善しなかったとして、厚生労働省愛知労働局は名古屋市を拠点とするB社の社名を公表し再度にわたって是正指導した。月80時間を超す違法な時間外・休日労働が同社のトラック運転手の約2割(計84人)で確認され、うち74人は1ヵ月あたり100時間超で、最長197時間のケースもあったとのこと。
これらの違法なケースは氷山の一角であり、他の企業の中には過労による自殺や脳梗塞、くも膜下出血、脳溢血などの病気が業務中に引き起こされるなど、いかに運送業の労働環境が劣悪か想像に難くありません。
こうした背景から状況証拠として荷待ち時間による乗務記録を残すことは、ドライバーの健康と安全を守ることに大いに役立ちます。もし違法なサービス残業が見つかれば、労働基準監督署や厚生労働省などが荷主と会社側に是正指導を行うことができ、労働環境の改善に繋がるはずです。
荷待ち時間はテクノロジーで解決できるか
では荷待ち時間を減らすためにはどのような方法が有効でしょうか。いくつか考えられますが、そのひとつとしてテクノロジーを活用した業務の効率化やモニタリングがあげられます。
乗務記録の書類の中に「デジタコなど他の方法で記録している場合は記載不要」とあるように、近年ではこれらの機器の他にドライブレコーダーなどを取り付けることによって、ドライバーの安全を確保する取り組みが各企業で行われています。
今ではGPSなどのセンサー技術も大いに進化しており、動態管理システムなどを活用すれば保有する車両をリアルタイムで監視することも難しくありません。データを活用しながら配送ルートを最適化したり、ドライバーの状況を遠隔から把握することもできます。
もちろんシステムを導入したからといってすぐに荷待ち時間がなくなるということはないでしょう。そもそも荷待ち時間を減らすには顧客である荷主の協力も必要です。ただ各車両の配送ルートや走行時間と荷待ち時間を記録し照らし合わせることで、それらの傾向を元に少しでも効果的な配送戦略を考えることは可能です。
従来であればそのようなデータを取得するにはそれなりに高価な車載システムを導入するしかありませんでした。しかし現在では比較的安価なシガーソケットにデバイスを差し込むだけで車両のデータが取れるサービスも続々台頭してきています。スマートドライブの提供するSmartDrive Fleetもまさに手軽にクラウド車両管理を実現するシステムです。SmartDrive Fleetでは運送業様向けに「乗務記録機能」もあり、「荷卸」や「待機」といった業務ステータスをお持ちのスマートフォンのタップ操作で簡単に登録することができます。ドライバーによって登録された1日の乗務内容は、登録された時間や位置情報と共にPCの管理画面で確認することができます。
荷待ち時間の記録が義務化されただけですぐに問題が解決されるということはないかもしれません。ただ、これをひとつのきっかけに、運送業界の実態の内外に向けた可視化がさらに進み、そのリアルをふまえた生産性向上・労働環境改善の対策の議論や対策が増えていくことを願っています。