
この記事を読むと
- 改正で数値化された危険運転の基準がわかる
- 数値基準と企業責任との結びつきがわかる
- 改正を機に強化すべき実務がわかる
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2026年6月に成立し、2026年7月21日に施行される改正自動車運転死傷処罰法により、危険運転致死傷罪が成立する飲酒や速度超過の基準が、はじめて具体的な数値で示されることになります。これまで「正常な運転が困難な状態」といった定性的な表現に委ねられていた線引きが明確になったことで、企業が「知らなかった」「判断が難しかった」では済まされない場面が増えています。とくに営業車や社用車を使う白ナンバー企業にとって、今回の改正は日常の車両管理を見直す大きなきっかけになります。
危険運転の基準はどう変わった?2026年7月21日施行の改正ポイント
改正自動車運転死傷処罰法は2026年6月25日に成立し、2026年7月21日に施行されました。今回の改正の最大のポイントは、危険運転致死傷罪が適用される「飲酒」と「速度超過」について、これまで明文化されていなかった数値基準が新たに設けられたことです。
従来の危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第2条)は、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」など、状態を定性的に判断する規定でした。そのため、同じような事故でも危険運転致死傷罪になるか、過失運転致死傷罪にとどまるかで司法判断が分かれ、予測しづらいという課題がありました。今回の数値化は、その線引きを明確にするものです。
新たに設けられた主な数値基準は次のとおりです。
| 区分 | 数値基準 |
|---|---|
| 飲酒(血液中アルコール濃度) | 血液1mLあたり1.0mg以上 |
| 飲酒(呼気中アルコール濃度) | 呼気1Lあたり0.5mg以上 |
| 速度超過(最高速度60km/h以下の道路) | 制限速度+50km/h以上 |
| 速度超過(最高速度60km/h超の道路) | 制限速度+60km/h以上 |
あわせて、故意にタイヤを滑らせて車両の制御を困難にする、いわゆるドリフト走行のような行為も新たに危険運転の類型として追加されました。危険運転の対象となる行為の類型は拡大しました。
なお、これらの数値は「危険運転致死傷罪」に関わる基準です。通常の飲酒運転(酒気帯び運転)の取り締まり基準である呼気1Lあたり0.15mg以上とは水準が異なる点に注意してください。
数値基準を下回っても危険運転になるのはなぜ?
ここで管理担当者がとくに誤解してはならない点があります。それは、「数値基準を下回っていれば危険運転にならない」わけではない、ということです。
今回の改正では数値基準が設けられましたが、同時に、数値を下回る場合でも「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」や「重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」で死傷事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪が適用されうる包括的な規定も維持されています。
つまり数値基準は「これを超えたら原則として一律に危険運転として扱う」という明確なラインを新設したものであり、「これ以下なら安全」というお墨付きではありません。社内でこの改正を周知する際は、「基準未満でも重い罪に問われる可能性がある」という点を必ず添えて説明することが重要です。
なぜ白ナンバー企業にこそ影響が大きいのか
危険運転致死傷罪は運転者本人に問われる罪です。しかし、業務中の運転で従業員が事故を起こした場合、企業もさまざまな責任を負う可能性があります。数値基準の明確化は、企業の管理責任がより問われやすくなることを意味します。
企業が問われうる主な責任は次のとおりです。
- 使用者責任(民法):従業員が業務中に起こした事故について、企業も被害者への損害賠償責任を負う場合があります。
- 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法):車両を業務に供している企業は、事故の損害賠償責任を負う立場になりえます。
- 車両提供に関する罪:飲酒運転をするおそれがある従業員に、それを知りながら車両を提供した場合、企業側の担当者が問われる可能性があります。
数値基準が明確になったことで、「どの程度の飲酒・速度なら重大な違反にあたるのか」という線引きが誰の目にも分かるようになりました。裏を返せば、企業が「そこまで危険だと思わなかった」という説明は通用しにくくなります。日常の管理体制が整っているかどうかが、これまで以上に企業の姿勢として問われる時代に入ったといえます。
とくに白ナンバー企業では、緑ナンバー事業者に比べて運行管理の仕組みが体系化されていないケースが少なくありません。改正を機に、自社の管理が「記録として残る形」になっているかを点検することをおすすめします。
改正を機に見直したい3つの日常管理
数値基準化は、企業に新たな義務を直接課すものではありません。しかし、従業員に危険運転をさせないための日常管理を強化する強い動機になります。ここでは、白ナンバー企業がすぐに見直せる3つの管理を実務の観点から整理します。
アルコールチェックは「記録が残る運用」になっているか
安全運転管理者を選任する事業所では、運転の前後にアルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認と、その記録の1年間保存が義務づけられています。危険運転の飲酒基準が数値化された今、社内でも「なんとなく確認している」状態から、検知器の数値をきちんと記録・保存する運用へ引き上げることが重要です。
次のチェックリストで自社の運用を確認してみてください。
| 確認項目 | できているか |
|---|---|
| 運転前後に検知器で測定しているか | □ |
| 測定した数値を記録として残しているか | □ |
| 記録を1年間保存できる仕組みがあるか | □ |
| 直行直帰・出張時にも確認できているか | □ |
| 検知器が正常に作動する状態に保たれているか | □ |
速度管理は「あとから振り返れる」状態か
速度超過が危険運転の数値基準に組み込まれたことで、日常の速度管理の重要性も高まりました。管理者が同乗できない業務運転では、実際の走行速度を把握する手段がなければ、超過運転を未然に防ぐことは困難です。走行データを記録し、あとから運転傾向を振り返れる状態にしておくことが、指導の出発点になります。
運転日報で運転実態を可視化できているか
誰が、いつ、どこを、どのように運転したのかを記録する運転日報は、事故発生時の状況把握だけでなく、日常的な安全指導の基礎資料になります。手書きの日報は記入漏れや後追い記入が起こりやすいため、改正を機に記録の正確性を高める運用へ見直すとよいでしょう。
車両管理を「記録が残る仕組み」に変えるには
これら3つの管理に共通するのは、「客観的な記録が残っているか」という視点です。アルコールチェックの数値、走行速度、運転日報のいずれも、記録として蓄積されてはじめて、指導や再発防止、そして万一のときの説明責任に活かせます。
近年は、車両にGPSや通信機器を取り付け、走行位置・速度・運転傾向を自動で記録するテレマティクスシステムを導入する企業が増えています。こうした走行管理システムを使えば、速度超過や急な操作といったリスクの高い運転を客観的なデータとして把握でき、個々の運転者への具体的な改善指導につなげられます。手作業の記録に頼らず、管理の抜け漏れを減らせる点も大きな利点です。
数値基準化によって「線引き」が明確になった今、企業に求められるのは、その線を超えさせないための仕組みづくりです。記録が自動で残る環境を整えることが、企業リスクを下げる近道になります。
まとめ:数値基準化時代に企業が取るべきアクション
2026年7月21日に施行された改正は、危険運転の判断基準を明確にすると同時に、企業の管理責任をより問われやすくする転換点です。白ナンバー企業が今すぐ取り組むべきアクションは次の3点です。
- 改正内容を正しく周知する:飲酒・速度超過の数値基準と、「基準未満でも危険運転になりうる」点をあわせて社内共有する
- 日常管理を記録が残る運用に変える:アルコールチェック・速度・運転日報を、客観的な記録として残せる形に見直す
- 管理を仕組み化する:手作業に頼らず、走行データを自動で蓄積できる体制を整え、指導と再発防止に活かす
数値化は、企業にとって管理の「言い訳」が効かなくなったことを意味します。改正をきっかけに、自社の車両管理体制を点検してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 数値基準を超えなければ危険運転致死傷罪にはなりませんか?
A. いいえ。数値を下回っても、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態などと判断されれば、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。数値はあくまで「原則として一律に適用する」ラインであり、安全の保証ではありません。
Q. 危険運転の飲酒基準と、酒気帯び運転の基準は同じですか?
A. 異なります。危険運転致死傷罪の飲酒基準は呼気1Lあたり0.5mg以上です。一方、酒気帯び運転の取り締まり基準は呼気1Lあたり0.15mg以上で、水準が異なります。
Q. 従業員が業務中に危険運転で事故を起こした場合、企業も責任を負いますか?
A. 負う可能性があります。使用者責任(民法)や運行供用者責任(自動車損害賠償保障法)により、企業が被害者への損害賠償責任を問われる場合があります。飲酒運転を知りながら車両を提供した場合は、担当者が罪に問われることもあります。
Q. 白ナンバー企業もアルコールチェックの義務がありますか?
A. 安全運転管理者の選任が必要な事業所(乗車定員11人以上の車1台以上、またはその他の自動車5台以上を使用する事業所)は、白ナンバーでも運転前後のアルコール検知器による確認と記録の保存が義務づけられています。
Q. 速度管理のために何から始めればよいですか?
A. まずは実際の走行速度を把握できる状態を作ることが出発点です。走行データを記録できる仕組みがあれば、超過傾向のある運転者を特定し、具体的な指導につなげられます。
参考資料
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(e-Gov法令検索)
- 飲酒運転や速度超過など危険運転の基準が"数値化" 2026年7月改正自動車運転死傷処罰法のポイントを弁護士が解説(JAF Mate Online)
- 道路交通法(アルコールチェック義務・安全運転管理者制度)
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