荷物はあるのにドライバーがいない!?物流業界が抱える「3つ」の課題
昨今、eコマース市場の継続的な拡大によって物流業界に求められる配送条件のハードルはどんどん高くなり、業界内ではさまざまな無理が生じ始めているようです。最近では、一部のサービスにおいて当日配達なども一般的になりつつあり、ドローンの利用なども検証されているようですが、こういった配達時間の短縮化の流れは一体どこまでいくのでしょうか。
今回は、物流業界が抱えているいくつかの課題の中から特に深刻とされている、「ドライバーの人材不足」「配達のスピード化」「配達中の事故防止」の3点について注目してみましょう。
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目次
課題① ドライバーの人材不足
まず、物流業界の危機的状況を象徴する課題とも呼べるのが、荷物を配達するドライバーの人材不足です。
このままの状態で今から20~30年が経過すると、物流業界ではドライバー不足がより深刻なものとなり、「荷物はたくさんあるのにそれを配達する人がいない」という状況に陥ってしまうことが予想されているのです。
若いトラックドライバーは4人に1人しかいない!?
トラックドライバーが不足している理由の中には、「収入の低さ」や「過酷な労働環境」といった仕事条件面の問題もあるようで、そもそも運送の世界に足を踏み入れる若者が少なくなっているからだと言われています。
そのため現在の物流業界ではドライバーの高齢化が進んでいます。国土交通省が2014年7月に発表した自動車運送事業等における労働力確保対策についてによると、大型トラックのドライバーの平均年齢は46.2歳。年齢層は40~60歳の間に集中しており、40歳未満の若いドライバーは全体の4分の1しかいないのだそうです。
もし今後も若いドライバーが増えないまま20~30年が経過し、上記の世代が定年退職をしてしまうと、ドライバー数が激減してしまうことが想定されます。冒頭で述べたように運ぶべき荷物は増加の一途という状況をふまえると、このドライバーの高齢化・減少化の傾向は深刻な問題と言えそうです。
佐川急便がAMAZONから撤退
ドライバー不足が深刻化している一方で、Amazonをはじめとする「小口配送」がここ数年で激増していることにより、すでに日本の物流業界は悲鳴を上げています。
これまでAmazon商品の宅配業務は、佐川急便とヤマト運輸の2大運送会社が担当をしていましたが、2013年4月に佐川急便が撤退。佐川急便が取引から撤退をしたのは、ドライバーをはじめとする人材が不足して、大量のAmazon商品に対応しきれなくなったからだといわれています。
どんなにインターネットショッピングが便利になっても、商品の現物を届けるのはひとりひとりのドライバーです。この「人材不足」という根本的な問題を解決しない限りは、物流業界の未来は明るくなるとは言い難いでしょう。
課題② 配達速度のスピード化
今の物流業界には、小口配送の対応に加えて「配達のスピード化」も求められています。
注文した当日に商品が届く「当日配達」サービスの台頭は、多くの企業を配達時間短縮競争に巻き込まむことになったの周知の事実だと思います。
当日配達は当たり前に!?
当日配達サービスは2010年を過ぎたころから各社で少しずつ導入されるようになり、「ヨドバシカメラ.com」は2011年8月に、千趣会グループの通販サイトでフラワーギフトなどの通販を手掛けている「イイハナ・ドットコム」は、2010年12月にサービスを開始しています。
また、ヤマト運輸は2010年秋に、佐川急便は2012年6月にと、大手運送会社もほぼ同時期に当日配達サービスを開始。
当日配達サービスは今や「当たり前のサービス」となりつつあるのです。
注文から1時間で商品が届く!?
そのような風潮を受けてか、アマゾンドットコムが「Prime Now」(プライムナウ)という新しいサービスを2015年11月に日本で開始しました。
「Prime Now」はAmazonプライム会員向けのサービスのひとつで、特定の対象エリアに住んでいる会員の注文に限り「注文から1時間以内」に指定の場所まで商品を配達するという、驚きのサービスです。
導入当初は都内8区のみを対象にしていましたが、現在(2016年8月)は東京、神奈川、千葉、大阪、兵庫まで対象地域を拡大し、今後もさらに広がっていくことが予想されています。
受け取る側にとっては、配達時間の短縮はもちろん喜ばしいことですが、配達業者にかかる負担は大きく、配達時間の短縮しながらも一定レベルのサービスのクオリティも同時に求めらています。これが常態化してしまうと、実際に日々荷物を運ぶトラックドライバーにかかる負担はさらに肥大していくということから、業界としての課題は深刻度を増していくことになります。
課題③ 配達中の交通事故防止
そして、荷物の配達を行うドライバーが何よりも気を付けなければならないのが、配達中の交通事故です。
全国の運送会社から構成される業界団体「全日本トラック協会」は、トラック事故を防止するためにさまざまな取り組みを行っており、事故の発生件数を減少させることに成功しています。
トラック事故の発生件数は10年間で3割減
警察庁の『交通事故統計』によると、営業用トラックによる事故件数は年々減少傾向にあり、2000年の37,007件に比べ2010年には25,447件にまで減っています。
減少率にすると10年間で31.2%減となっており、これは営業用トラック以外も含めた交通事故全体の減少率(22.1%)を大きく上回っている結果になっているとのことです。
また営業用トラックの事故による死亡者数も、2000年には795人だったのが、2010年には421人まで減少を見せています。
目標は交通事故件数の半減
2009年に国土交通省は『事業用自動車総合安全プラン2009』という施策を公表し、事業用自動車の交通事故による死者数と人身事故件数を2008年のデータを基準として、2018年までに半減させるという目標設定を行いました。
それを受けて全日本トラック協会は、2018年までに人身事故件数を「15,000件以下」に、交通事故死者数を「220人以下」にするという目標を立て、目標の実現に向けて「安全教育訓練の実施」や「Gマークの推進」「点呼時のアルコールチェッカーの使用の徹底」といった取り組みを積極的に行っています。
プランの目標年である2018年まであと2年ですが、これらの取り組みによって今後さらにトラック事故が減っていくことを期待したいですね。
課題解決のためにはひとりひとりの努力が必要
私たちの日々の生活上必要なもののほとんどが物流によって支えられています。震災の教訓からもわかるように、交通網が麻痺すると途端に私たちの日常はままならなくなります。つまり、現在の私たちの便利で快適な生活は物流によって支えられているとも言えるでしょう。
そんな状況の中で、これまで見てきたように物流業界に課せられているチャレンジは簡単に解決できるようなものではありません。今後さらなる効率化のためには、オペーレーションの改善や業務システムの効率化、運送拠点の整備、必要な人員の確保、自然災害など緊急時対応準備など様々な課題がありますが、各社が個別に対応できないことは業界全体として取り組んでいったり、政府の協力も得て改善に努めていく必要がありそうです。