物流業界の働き方改革!ホワイト物流推進運動とは
以前から先進国では、技術・開発などの事務系や企画・営業の職に就いている労働者をホワイトカラー、生産・製造過程で直接作業に従事する労働者をブルーカラーと呼び、前者より後者の方が賃金水準は低く、労働環境が劣悪だとされてきました。
近年、現場へのIT導入や作業のオートメーション化により、両者の格差はずいぶん是正されてきたものの、人手に頼らざる得ない業務が大半を占める物流業界は、なかなかブルーカラーから脱却しきれていないようです。そんな中、物流業界が抱える多くの課題を解決に導く新概念、「ホワイト物流」というワードに注目が集まっていますが、具体的にはどのような取り組みであり、どんな企業が賛同・導入しているのか、今回は徹底検証してまいります。
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目次
ホワイト物流とは
正確な名称は「ホワイト物流推進運動」と呼ばれるこの取り組みは、少子化による深刻なドライバー不足に伴い、国交省・経産省・農水省主導でトラック輸送の生産性の向上・物流の効率化と女性や60代以上の運転者等も働きやすいより「ホワイト」な労働環境の実現を目指した社会運動です。
2019年5月13日には、各省連名で全国約6,300の企業に対し、運動への参加を要請する文書が送付され、同推進運動ポータルサイトに集計によると、2020年2月末時点で866社が趣旨に賛同・参加を表明しています。運輸・運送・郵便・倉庫業はもちろん、鉱業・採石業や建設業、製造業、電気・ガス・水道業、情報通信業からその他サービス業にまで、多岐にわたる企業・団体が推進運動に賛同していることから、ホワイト物流の実現がいかに国民生活の安定と持続的な経済成長に不可欠なのか良くわかります。
ホワイト物流推進運動の内容1「自主行動宣言の必須項目への同意」
不和糸物流推進運動に賛同したことを公表されている企業は、すべて以下で示す3つの自主行動宣言の必須事項に同意しています。
【取組方針】・・・事業活動に必要な物流の持続的・安定的な確保を経営課題として認識し、生産性の高い物流と働き方改革の実現に向け、取引先や物流事業者等の関係者との相互理解と協力のもとで、物流の改善に取り組みます。
【法令遵守への配慮】・・・法令違反が生じる恐れがある場合の契約内容や運送内容の見直しに適切に対応するなど、取引先の物流事業者が労働関係法令・貨物自動車運送事業関係法令を遵守できるよう、必要な配慮を行います。
【契約内容の明確化・遵守】・・・運送及び荷役、検品等の運送以外の役務に関する契約内容を明確化するとともに、取引先や物流事業者等の関係者の協力を得つつ、その遵守に努めます。
ホワイト物流推進運動の内容2「推奨項目の選定(任意)」
さらに、企業・団体として独自に取り組むことができる項目について、以下で示す推奨項目を参考に検討、自主行動宣言へどれを盛り込むか公表するか否かは任意となっており、随時追加・変更・削除可能です。
テーマ | 推奨項目 |
(ア)運送内容の見直し | ①物流の改善提案と協力②予約受付システムの導入③パレット等の活用④発荷主からの入出荷情報等の事前提供⑤幹線輸送部分と集荷配送部分の分離⑥集荷先や配送先の集約⑦運転以外の作業部分の分離⑧出荷に合わせた生産・荷造り等⑨荷主側の施設面の改善⑩リードタイムの延長⑪高速道路の利用⑫混雑時を避けた配送⑬発注量の平準化⑭船舶や鉄道へのモーダルシフト⑮納品日の集約⑯検品水準の適正化⑰物流システムや資機材の標準化 |
(イ)運送契約の方法 | ①運送契約の書面化の推進②運賃と料金の別建て契約③燃油サーチャージの導入④下請取引の適正化 |
(ウ)運送契約の相手方の選定 | ①契約の相手方を選定する際の法令遵守状況の考慮②働き方改革等に取組む物流事業者の積極的活用 |
(エ)安全の確保 | ①荷役作業時の安全対策②異常気象時等の運行の中止・中断等 |
(オ)その他 | ①宅配便の再配達の削減への協力②引越時期の分散への協力他③独自の取組 |
推奨項目数の多さからもわかるように、ホワイト物流の実現には(ア)に注力しなければならず、ITやロボットの活用、推進運動に賛同した荷主や他業種企業と連携し、強い協力体制を構築することが重要です。
ホワイト物流推進運動の内容3「自主行動宣言の提出・実施・更新」
ホワイト物流推進運動のように、経済成長戦略や働き方改革に関する取り組みは数多くありますが、その中のいくつかは行動指針のみが目的化し、実効力の乏しい「絵に描いた餅」になっていることも少なくありません。
そのため、同推進運動事務局は自主行動宣言の提出を随時受け付けているほか、推奨項目についても社内外で広く合意が得やすく、早急に実行可能なものから段階を踏んで盛り込み、徐々に内容を充実していくことをすすめています。
しかし、働き方改革関連法の完全施行を鑑みると物流業界に残されたタイムリミットは、「罰則付き時間外労働時間の上限規制」が適用される2014年4月までの約4年間、それまでにある程度ホワイト物流を形にしないと、業界そのものの足元が崩れていく可能性も。そのため、「あと4年しかない」と危機感を持って実施し、目まぐるしく変化する情勢に合わせ項目を追加・更新しながら、継続的に運用する必要があると考えています。
物流業界における働き方の現状と課題
厚労省が毎年公表している「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」によると、2017年は236件(うち過労死が92件)の労災保険決定がなされましたが、内訳を職種別にみると、自動車運転従事者が89件(うち過労死が35件)と全体の約38%を占めています。
<>は死亡()は女性の内数
ワースト2位である法人・団体管理職員と比較し、自動車運転従事者の支給決定件数・死亡者数はともに4倍に達しており、他業種より労働環境が良くないとわかるでしょう。荷積みや荷下ろしなど、過酷な肉体労働による身体的負担、ドライバー1人当たりの労働時間が全産業従事者より約20%長いことなどが主な原因ですが、もう1つ手待ち(荷待ち)時間が平均1時間45分というのも、近年改正すべき問題として指摘されています。
この結果にはドライバーの自主的行動や時間調整も含まれますが、手待ち時間のほとんどは「荷主都合」で発生しており、次のような負の無限ループに陥ることで、物流ドライバーの労働環境が悪化の一途をたどっているのです。
1. 手待ち時間が長くなる
↓
2. 荷積み・荷下ろしを急ぐ必要がある
↓
3. 配送(運転)時間短縮には限界がある
↓
4. 身体的・精神的負担の増加
↓
5. 次の出・入庫先でも手待ち時間が発生
事態を重く見た国交省は、長い手待ち時間を生じさせている荷主に対する改善勧告等の判断材料とするため、2017年7月より荷主都合による30分以上の手待ち発生を乗務記録に記載し1年間保存する旨、全日本トラック協会へ通達しました。
しかし、荷主側の権限が圧倒的に強く運送業者側が都合に従わざるを得ない、物流業界ならではの旧態依然とした商慣行が災いし、手待ち時間を短縮できずドライバーの労働環境が改善していません。そして、厚労省や地方自治体と物流業界、並びに関係企業・団体が一体となって悪しき商慣習を無くし、併せてIT活用による配送・出入庫業務の効率化で労働時間短縮と、生産性向上を図ろうというのが、ホワイト物流のメインテーマであると言えるでしょう。
ホワイト物流のメリットと社会的意義
ここまで、ホワイト物流推進運動のあらましと内容、物流業界における働き方の現状と課題を解説しました。多くの関連企業に参加を促したとはいえ、あくまで自主的な取り組みを促進する運動のため、厚労省が進捗状況をチェックするわけではありません。徐々に注目度が高まり賛同企業が増えているとはいえ、法的強制力や助成金が準備されているわけでもないため、参加に二の足を踏んでいる企業も多く、厚労省の参加要請に応じたのは全体の約13,7%に留まっています。この項ではホワイト物流推進運動へ参加することで得られるメリットと、社会的意義について考えてみました。
企業・部署を超えたITシステム活用による手待ち時間の短縮
従来、入・出庫先の荷積みと荷下ろしは先着順で行われており、処理能力に限りがあるにもかかわらず特定の時間にトラックが集中した結果、無駄な手待ち時間が発生しています。
厚労省の調査によれば、手待ち時間がある運行におけるドライバーの平均拘束時間は「13時間37分」、そしてこれはあくまで計算上の話ですが、手待ち時間を0にできれば、拘束時間は「11時間52分」まで短縮可能ということです。
それには、荷主企業が各トラックバースの荷役予定時刻を事前設定・最適化する「予約受付システム」を導入することで大幅な改善が見込めます。また、荷主側も倉庫作業がITシステムの導入によって効率化することで、時間・人員削減によるコストカットや、自社商品・サービスの円滑な流通による生産性向上など、様々なメリットが発生します。
繁忙期にはろくに休憩も取れず、食事すら信号待ちの間におにぎりやパンで済ませることもあるドライバーの窮状を考慮すれば、運送業者は荷主企業へホワイト物流運動の有益性をアピールすることで参加を促すことができるのではないでしょうか。
パレット・補助機器による肉体的負担の削減
大量の貨物を手作業で積み下ろしていては、ドライバーも倉庫作業者も肉体的負担が大きくなるのは当たり前です。一部の運送業者・荷主企業は、この現状を改善するためにパレットを活用し、手作業からフォークリフトなどの「補助機器」による荷役へシフトを試みていますが、購入・管理費用の負担などによって、なかなか調整が進んでいないようです。
物流業界は高齢化が加速しているため、一刻も早くホワイト物流の推奨項目に盛り込み、賛同企業間で荷役の負担軽減対策に関する同意を取り付け、女性や60代以上の方でも働きやすい職場を実現すべきかもしれません。働きやすい職場実現のカギは、IT・ロボットなどを導入した作業のオートメーション化です。
ホワイト物流運動には、トヨタやパナソニックなどの自動車・家電メーカーから、キューピーやアサヒ飲料といった食品・飲料大手まで、職場のホワイト化に成功した数多くの企業が賛同しています。大手製造企業の事例を参考に、そのノウハウを吸収し自社の施策に活用すると良いでしょう。
車両管理システム導入による荷主への対応請求と配送ルートの効率化
高度なITシステムは導入コストがかかると懸念している企業もいるのではないでしょうか。そこでおすすめしたいのが、車両管理システムです。同システムには厚労省が荷主に対する勧告等の判断材料とする手待ち時間を自動で記録するものもあり、リアルタイムでの位置情報が把握できるというメリットも持ち合わせています。これらの機能によって、荷主企業に対し従来の商慣習にとらわれることなく適正な改善対応を求められるほか、一向に対応がなされなかった場合は勧告対象の根拠として、厚労省へ提出することも可能です。
また、車両管理システムでは、渋滞多発地帯や道路規制エリアなどを回避した配送ルートの効率化やリアルタイムでの運行スケジュール変更の指示も可能なため、トータルの労働時間を短縮することができます。
労働時間短縮・環境改善による人材不足の解消と過労死の根絶
ホワイト物流推進運動最大の目的は、なんといっても深刻化するドライバー不足の解消です。労働時間短縮と環境改善が行えれば約3,03%と、全産業平均の倍近くに達している有効求人倍率(※)も、徐々に下がるはずですし、利益による肉体的負担が軽減されれば、現状わずか1,2%に過ぎない女性ドライバーの数も増加が見込めるでしょう。
※2019年12月現在の水準。有効求人倍率が高いということは、それだけその業種に就きたいと考える求職者が少ないという証。
労働者の健康維持・環境保全に積極的な企業としてアピールできる
ホワイト物流推進運動への賛同を表明すると、労働者が健康で長く働ける職場作りや、二酸化炭素削減に寄与した「優良企業」として、同運動のポータルサイト上で社名が広く公表されます。また、参加企業・団体は同サイトで配布されているイラストや、バナーの使用が認められており、これらを商品・サービスのプロモーション活動に利用すれば、消費者や取引先へ社会的責任(CSR)を遂行している企業であることを、強くアピールできるのです。
企業・組織のコンプライアンス徹底が叫ばれている今、働き方改革関連法の遵守や環境保全を始めとする、CSRに社を挙げて取り組んでいる事実は、消費者からの評価向上による新規顧客の獲得など、数多くの利益を企業に与える可能性を秘めているのではないでしょうか。