テクノロジーで物流のミライを切り開くために必要なこととは
テクノロジーを活用した物流ソリューションを提供する株式会社モノフル。同社が目指す物流業界の変革とは何なのか、同社の代表取締役社長である藤岡様へインタビューしました。
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インタビュイー: 株式会社モノフル 代表取締役社長 藤岡洋介(ふじおか・ようすけ)さま
業界の外から物流業界を革新する
まずは藤岡様のご経歴と株式会社モノフルについて、簡単にご紹介いただけますでしょうか。
新卒で2002年に日本総合研究所に入社し、6年間SE(システムエンジニア)をしていましたが、2008年に、不動産投資というSEとは異なるスケールを個人が扱えるビジネスに興味を持ち、日本GLPの前身となる株式会社プロロジスに転職。入社して間もなくプロロジスから、売却される形で誕生したGLPに移籍し、シンガポールオフィスでの4年間の期間を含め、現在も日本GLPに在籍しております。現在は、日本GLPで投資運用部門の責任者、広報部長と株式会社モノフルで代表取締役を務めております。
モノフルはテクノロジーを活用した物流ソリューションを提供する会社で、セールス、プロダクトマネージャー、エンジニアなど10名程が在籍し、物流業界の課題をあらゆる方向から解決へと導くサービスを開発しています。そして、もう一つの事業が投資です。スマートドライブへの出資を皮切りに、現在、複数の企業に投資をしております。投資先のパートナー企業と連携し、物流・サプライチェーンに関わるすべての人たちが共通の機能で業務を効率化する、ロジスティクス・エコシステムを作るのが私たちのミッションです。
日本GLPは物流施設デベロッパーとしてマーケットリーダーですが、物流施設の外に目を向けると、私たちのようにソリューションを提供している企業はほとんどいませんので、トラックの配送ルート、労働力、庫内の作業効率化、さまざまな物流の課題解決を目指し、モノフルを通じて物流ソリューションを提供しています。
サービスの開発には外部の協力パートナーの手も借りていますが、組織内が少人数であっても、基本的なエッセンス、重要な部分はすべて内製化するというこだわりだけは外せません。トラック簿の類似サービスはすでにいくつも提供されていますが、より精度の高いものを作るには、自分たちのプロダクト、そして何よりもお客様の課題やニーズをしっかり理解したうえで開発すべきだと思うのです。私どもは日本で最も多くの物流施設を展開していますので、お客様との接点も多く現場を把握しやすいのが一番の強み。顧客のネットワークや距離の近さがアドバンテージになっていると思っています。
レガシーな業界をテクノロジーで変えるには
物流業界はまだ、ITやテクノロジーによる効率化が遅れている印象を受けます。モノフルとして、今後どのようにテクノロジーを使って物流業界を変えていきたいとお考えでしょうか。
日本の物流はかなり細分化されていて、ステークホルダーが非常に多い。トラックの運送業者が6万社以上いるなど、業界を横断してIT化が進まない理由は、業界構造に原因があるのではないかと考えています。
荷物は何名も人の手を渡って運ばれていくもの。そのため、業務の適正化や最適化をはかるために一社だけがシステム化を推進しても、他の企業も同じように取り入れなければ意味をなしません。それに、物流業界では、ある企業が自社でシステムを作っても、競合他社のサービスを使おうとしませんので、結果、同じシステムを使うことがない。今まで部分最適は行ってきたものの、全体最適が行われていなかったは、このような理由が折り重なっているためです。
弊社には物流関連のお客様が多くいらっしゃいますが、私たち自身は物流会社ではありません。入居しているお客様の大多数が物流会社様というだけで、GLPはあくまで不動産会社であり、不動産を提供しているプレイヤーでしかないのです。そうすると、物流不動産という立場から、物流会社様を後押しするプラットフォームをスムーズに提供することができる、つまり、同業者ではないので、業界外にいる私たちが開発したシステムはどの物流会社さまにも取り入れていただきやすくなります。
そのシステムによって業務が効率化されたり、労働時間や残業代を圧縮することができたりすれば、システム化によるメリットを実感いただけるでしょう。そういう点では、業界外の人間として物流業界にディスラプトしていく動きをかけることができるのが、私たちの強みだと思います。
ただ、一般的には、ディスラプト=壊していくというイメージが強くありますが、私はどちらかというと共存や寄り添うといった言葉のほうが近いと考えていて。Amazonは実際に書店も手がけていますし、現実的にも小売業界を“ディスラプト”しました。しかし、GLPやモノフルは物流会社ではありませんし、目指しているのは物流業界のビジネスをサポートするインフラを提供し、業界の成長を促すこと。業界外で物流業界のために資するサービスを提供できるプレイヤーであることが、Amazonとは大きく違う点です。
私たちは3PL(サードパーティロジティクス)や物流を生業とするつもりはありません。ならば、物流業界の業界構造を理解し、中立的な立場としてどのように変えていくべきなのか。そう考えた時に、あらゆる技術を活用するには、データが必要だという考えにたどり着く。自動運転にしても、地図をはじめ道路工事や渋滞情報に関するデータなど、あらゆる情報を集積することではじめて、安全な走行が成り立つのではないでしょうか。しかし残念ながら、今のB to Bの物流においてはデータ化されている情報は少なく、これが技術浸透の大きな足かせになっています。
Amazonやアスクル、Yahoo、楽天など、みなさんが日常的に利用しているB to Cの物流は、各々のプラットフォーマーが決済から物流、UIまで、すべてをバーティカルに提供しています。プラットフォーム上には顧客データが蓄積され、その顧客に向けて質の高いサービスを提供できるような仕組みになっていますので、普段からネットショッピングを利用されている方であれば、日々、アップデートし続けていることにお気づきになるでしょう。
さらに購買データはどんどん蓄積されていきますので、5年前よりも今のほうが進化のスピードが格段と上がっていますし、新しい施策が打てるようになります。B to Cの物流ではそのような土壌がすでに出来上がっていますが、B to Bの物流に目を向けると、そうした大きなプラットフォーマーがいません。とある大手物流企業では、荷物のデータを所有していますがそれはあくまで社内管理するために使うもので、ユーザーのUX向上や業界の改善に活用する動きもないようです。
ラストワンマイル問題を含め、バーティカルな動きをしている会社さまは結構いらっしゃいます。しかし、これからは企業間物流に注意を向け、横断的に使えるものを開発していかなくては課題が解決に向かいませんし、IT化も広がっていかないでしょう。
業界構造的にそういうプレイヤーが誕生しづらかったのは、データがないという根本的な理由があったから。本来であれば、A社のデータをB社が分析することによって、効率的な配送ルートや配送方法、倉庫内のオペレーションの型など、互いに相乗効果を発揮できるはずなのです。しかし現実ではデータが自社内で眠ったままですし、そもそもITリテラシーが高くない業界でもありますので、デバイスやシステムが普及していません。
そうした物流業界において、IoTやICT以前に求められているのがシンプルなITです。AIを駆使して需要予測をするにはそれだけの情報、つまりデータが必要となりますが、その段階には到達するべく、まずはデータの取得に注力しています。取得したデータは、業界全体に寄与する形で提供したいので、モノの移動、トラックの移動、庫内の作業のデータ、サプライチェーンにおけるあらゆる局面のデータを集めることに今後も心血を注いでいきたいと思っています。
それを実現する入り口がトラック簿。トラック簿は、バース運用を最適化するためのシステムですが、トラックと倉庫の接点を可視化することで、トラックの配送時間や庫内のオペレーションを見直すことができ、改善に向けた次のアクションにつなげることができます。トラック簿でより多くのデータを集めることができれば、将来的にはマーケットのベストプラクティスという形で還元できますので、業務効率の大幅な向上が見込めるのです。
今の物流業界に必要なのはデータである
物流業界における技術やテクノロジーで注目している分野はございますか。
物流という観点では、自動運転やドローン、無人配送への期待がありますが、私としてはデータがつながる未来のほうが重要だと思っています。スマートドライブさんもよく使われている「コネクテッド」という言葉がありますが、荷物の情報と配送の情報が分断されていたり、関西にいる人と東京にいる人の情報が分断されていたり、今はまだ何もコネクトしていません。それを製造から流通、保管、それぞれの段階、それぞれのステージにいる人たちが、それぞれの情報を連携させることができれば、物流業界が大きく前進します。
連携できれば全情報が可視化されることになりますので、製造、配送、調達、外注、すべてのリードタイムを最短にすることができますし、配送のコストもかわっていくでしょう。ですので、AIや自動運転などの単体の技術に注目するより、業界をまたいで情報を相互にやり取りできる世の中になることを期待していますし、実現するためにGLPやモノフルがその一部を担うことができればと思っています。
移動の進化とは●●だ
藤岡様が思う「移動の進化」とはどのようなものでしょうか。
そうですね、私が考える移動の進化とは、移動そのものを意識しなくなることでしょうか。たとえば、会議をしたいと思った瞬間、そこに会議室ができればいいっていう。
今までは、買い物に行きたいと思ったら自分の足で店舗に行かなくてはならないし、空港に行く場合は成田エクスプレスを利用して自分で向かうなど、すべての行動が能動的で、主語が常に“自分発”でした。しかしこれからは、あらゆる技術によって常時、自分の位置情報やスケジューラーなどが共有されるようになっていて、「この時間はジムでワークアウトをしたい」「この日のこの時間に会議をやりたい」と言うだけで、そこにジムが来る、もしくは近くのジムを利用できるようになるかもしれない。つまり、自分が受動態に、受け身の状態になるということです。
もっと噛み砕いて説明すると、空港に行きたいと思わずとも空港に行く手段が手配されるとか、いま自分がいる場所が空港になるとか。そんな夢のような世界が現実になるのは30年後、200年後だろうと思われるかもしれませんが、それこそ空飛ぶクルマができたら、そこにいながら自分が欲しいものが届くし、アベイラブルになる世界が実現できれば、「移動しなくてもいいね」が当たり前になるかもしれません。
移動って、そもそもどういうことを言うのか。突き詰めすぎると分からないですよね。しかし、いつになるかはまだ分かりませんが、何もしなくても欲しいものがその場で手に入る世の中になるんじゃないかなと思っています。